第五話 「辺境での拠点作り」

 王宮での騒乱を経て、僕とリディア、エリナは王都を離れた。

 王女が自ら政略婚を拒み、追放従者を伴侶として選んだ――その衝撃は瞬く間に国中へ広がった。


「……とんでもない噂になってますね」

 馬車に揺られながら、エリナが苦笑する。

「勇者より従者を選んだ王女、って見出しで、街の酒場はどこも持ちきりですよ」

「ふふ、いいじゃない。事実なんだから」

 リディアは涼しい顔で答える。


 その強さに、僕は思わず微笑んだ。

 彼女の決断は重い責任を伴う。それでも迷わず僕を選んでくれたのだ。


◆◆◆


 数日後、僕たちは辺境の村に辿り着いた。

 山と森に囲まれた小さな集落。だが、その立地は魔物の進行を食い止める要衝でもある。


「ここを拠点にしましょう」

 リディアが言うと、村長は目を丸くした。


「お、おお……王女殿下自ら、このような僻地に……!」

「ええ。この地を守り、発展させたいのです」


 僕たちは村人たちの協力を得て、古い屋敷を修繕し、拠点とした。

 崩れかけた石壁を直し、畑を耕し、井戸を掘り直す。

 王都での豪奢な暮らしとはかけ離れた労働だったが、不思議と心は満ちていた。


「カイン様、土木作業も様になってますね」

「はは、従者だからな。雑用は得意なんだ」

「……無能なんかじゃないですよ」

 エリナの真剣な声に、胸が熱くなる。


◆◆◆


 ある日、村の子どもたちが屋敷に駆け込んできた。


「た、大変だ! 森に魔物が出た!」


 急ぎ現場へ向かうと、巨大な岩のような魔獣が村人を襲っていた。

 僕は蒼刃の大剣を構え、〈魔力記録〉を解放する。


「来い……〈大地の鉄槌〉!」


 かつて見た土魔法を再現すると、地面から巨大な石槌が生まれ、魔獣を粉砕した。

 村人たちは歓声を上げ、子どもたちは目を輝かせて叫んだ。


「すげぇ! 勇者より強い!」

「カイン様、ありがとう!」


 その声に、追放された日の記憶がよみがえる。

 無能と罵られたあの日とは正反対の光景が、今ここにあった。


◆◆◆


 数週間後。

 村には活気が戻り、人々は自ら防備を整え始めた。

 僕たちの拠点も形を成し、まるで小さな砦のようになっていた。


 そんな折、ひとりの来訪者が現れる。

 鋼の鎧を纏った女剣士――その名はセシリア。

 王国騎士団を抜け、辺境に流れてきたと言う。


「王都で噂は聞いた。追放された従者が、王女と聖女を従えて最強のパーティを結成したと」

「……噂が一人歩きしてるな」

「ふふ、面白そうだ。私も仲間に入れてくれないか?」


 彼女の瞳は挑戦的に輝いていた。

 こうしてまた、新たな仲間が加わる。


◆◆◆


 夜、焚火を囲んで仲間たちと語らう。

 リディアは地図を広げ、エリナは祈りを捧げ、セシリアは剣を磨いている。

 その光景を見ながら、僕は深く息をついた。


「……あの日、追放されてよかったのかもしれない」

「カイン?」

「だって、あの日がなければ、こうして出会えなかったから」


 リディアとエリナが微笑み、セシリアはからかうように笑った。


「まったく、甘いな。だが嫌いじゃないぜ」


 笑い声が夜空に響く。

 辺境の拠点は、確かに“最強パーティ”の始まりを告げていた。


(第五話・完)

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