第六話 「かつての勇者との再会」

 辺境の拠点が形を成して数日。

 僕たちは村人と共に訓練を行い、防備を固めていた。


「カイン様! 剣の持ち方、これでいいですか?」

「もっと腰を落として……そう、力は腕じゃなくて足から伝えるんだ」


 子どもから大人まで、みんなが真剣な目で僕の言葉を聞く。

 “無能従者”と罵られていた日々が嘘のようだった。

 だが、その穏やかな時間は、思わぬ訪問者によって破られることになる。


◆◆◆


 その日、村の入り口に数人の影が現れた。

 堂々とした鎧姿――勇者ジークと、かつての仲間たちだった。


「……ジーク」


 僕の声に、仲間たちの空気が一瞬にして張りつめる。

 リディアは冷ややかに彼を見据え、エリナはわずかに唇を噛んだ。


「久しいな、カイン」

 ジークは相変わらず自信に満ちた笑みを浮かべていた。

「どうやら噂は本当だったらしいな。追放された従者が、王女と聖女を従えて“最強パーティ”を気取っていると」


「……気取ってなんかいない。ただ、必要とされる場所で生きているだけだ」


 僕の言葉に、ジークの眉がピクリと動いた。


「だがな、カイン」

 ジークは剣を抜き、鋭い視線を向けてくる。

「お前の力は俺たちのものだったはずだ。従者が勝手に英雄を気取るな」


「何を言っているのですか」

 リディアが一歩前に出る。

「彼の力は、彼自身のものです。勇者パーティに利用されるためのものではありません!」


「……王女殿下。あなたも目を曇らせたか」


 ジークはため息をつき、剣を構えた。

 その背後で、炎術師や氷術師も魔力を解き放ち始める。


「やめてジーク!」

 エリナが叫んだ。

「カインは無能なんかじゃなかった! あなたが間違っていたの!」

「黙れ! 聖女まで裏切るとはな……」


 空気が一気に張り詰める。


◆◆◆


「……ジーク。お前とは、いずれこうなると思っていた」


 僕は蒼刃の大剣を握りしめる。

 〈魔力記録〉が呼応するように輝き、蒼い光が辺りを照らした。


「証明してやる。誰が本当に必要とされる存在かを」

「面白い。ならば勝負だ!」


 ジークが斬りかかる。

 その剣筋は速く、鋭い。かつて勇者と呼ばれた男の実力は健在だった。


 だが、僕は迷わず蒼刃を振るった。

 火花が散り、剣と剣がぶつかり合う。


「ぐっ……!」

 ジークが押し返され、後退する。


「なっ……馬鹿な……!?」


 炎術師が呪文を放つ。

「〈フレア・バースト〉!」


 だが僕は〈魔力記録〉を発動し、同じ呪文を再現した。


「〈フレア・バースト〉!」


 炎と炎が激突し、相殺される。

 驚愕に目を見開く術師たち。


「……記録して、再現だと……!?」

「僕の力を無能と切り捨てたのは、お前たちだ」


◆◆◆


 激しい戦いの末、勇者パーティは膝をついていた。

 ジークは荒い息をつきながら、僕を睨みつける。


「……どうしてだ……従者のお前が、ここまで強く……」

「簡単だ。僕は一人じゃない。必要だと言ってくれる仲間がいる」


 リディアが隣に立ち、エリナも微笑む。

 セシリアが剣を構えて守りを固め、村人たちも背後で声援を送っていた。


「お前たちが切り捨てた“無能”は、今や最強の仲間たちに支えられている」


 その言葉に、ジークは言葉を失った。


「……覚えていろ、カイン」

 絞り出すように吐き捨て、ジークは仲間を連れて去っていった。


 残された空気には、確かな勝利の余韻が漂っていた。


「……終わったのか」

「ええ。あなたが、勇者を超えたのです」

 リディアの言葉に、胸の奥が熱くなる。


 追放された最弱従者。

 だが今は違う。

 僕は確かに、自分の力で、仲間を守ることができたのだ。


◆◆◆


 夜、焚火を囲みながら。

 リディアが真剣な表情で口を開いた。


「……カイン。このままでは済みません。ジークの背後にいる黒幕――王国の貴族派閥が本格的に動き始めるはずです」

「わかってる。けど、僕たちなら……」


「乗り越えられる」

 エリナが柔らかく微笑む。

「あなたの力も、私たちの絆も、もう誰にも否定できませんから」


 セシリアが剣を突き立て、力強く笑った。

「そうだな。最強パーティの名に恥じない戦いを見せてやろう」


 焚火の炎が高く燃え上がり、未来を照らす。

 ――次なる戦いは、王国全体を巻き込むものになるだろう。


 だがもう、恐れることはなかった。


(第六話・完)

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