第2話 オカリーナちゃん

オカリーナちゃん


オカリーナちゃん、今日も風とリズムにのっています。


兄のおかりなマンはアルトC管の達人で、

人々は聴き入り、

鳥たちは、仲間と間違える


でも、オカリーナちゃんが好きなのは――ソプラノC管。

兄よりちょうど1オクターブ高い、明るくキラキラした音色が気に入り。


とはいえ、始めたばかり。

今日も公園のベンチに座って、ぱたぱたと足を揺らしながら練習中。


「キレイな音、だしたいなぁ……」


ぽつりとつぶやくと、風が「がんばれ」と背中を押してくれるようでした。



■ ロングトーンは、忍耐と集中の魔法の修行


兄が隣で言いました。


「オカリーナ、ロングトーンはね、オカリナの“魔法の基礎”だよ。」


ロングトーンとは、ただ長く吹くだけではありません。


ひとつの音を

息の強さそのままに、まっすぐ吹き続ける。

ビブラートもゆらぎもなし。

まるで、“真っ直ぐ走るレーザー”みたいな音を目指します。


でも、これが難しい。

オカリナは息圧が少し変わるだけで、音程がフラフラしちゃう。

まるで、転びそうになってよろよろする子鹿みたいに。


だから必要なんです――

息のコントロール。



■ 横隔膜が大活躍!


「息を支えるには“お腹”を使うんだよ。」

と、おかりなマン。


ただし“お腹”と言っても、ふくらませるとか、引っ込めるとかの話ではありません。


その正体は……

横隔膜(おうかくまく)!


横隔膜をふわっと下げて、しっかりコントロールして、長い息を支える。

すると不思議なことに、周りの筋肉――骨盤底筋や、お腹の中の器官も元気に動きだすんです。


だから、オカリーナちゃんは毎回こうなる。


「はぁ~~……お腹すいた……!」


横隔膜をたくさん働かせると、身体がぽかぽかして、代謝も上がる。

練習が終わる頃には、もうペコペコ。


「今日のごはん、なにかな~♪」


もしかしたら、

「ごはんが美味しくなる」

これこそが、オカリーナちゃんがオカリナを続ける理由のひとつなのかもしれません。



■ そして、音がひとつ育っていく


公園には夕日が差し込み、風が少し止んだ瞬間。

オカリーナちゃんは息を吸い、そっとロングトーンを吹いた。


ピ――ーーー……


いつもよりまっすぐ。

いつもより安定していて。

いつもより、ちょっとだけ誇らしい。


「やった……! 兄ちゃん、まっすぐ出たよ!」


「うん。すごくいい音だよ。」


夕暮れ、2人のオカリナの音が重なり、

低いアルトと高いソプラノが、まるで兄妹が手をつないで歩いているように寄り添った。


オカリーナちゃんの旅は、まだ始まったばかり。

でもその1音は、確かに未来へと続いているのでした――。

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