第2話
「ねえ、ミル。ここって、どこか知ってる?」
ミルはきょとんとした表情で周囲を見回す。
「あれ?ここって、どこ?」
「え?」ナオは思わず声を上げる。
「アタシ、神殿でお祈りしてたのに…」
小さく眉をひそめ、口元を引きつらせて不安そうに辺りを見回すミル。
神殿?どうやら彼女も別の場所からやってきたらしい。
「そ、そうか…じゃあ、二人ともここに突然来ちゃったってことか」
ミルは小さく浮きながらうなずく。
「うん…でも、ま、なんとかなるかな!
ねえナオ、なんだかちょっとワクワクしない?
冒険みたいで楽しそうだし、どうなるか想像するだけで面白いよね!」
キラキラとした目でナオを見つめるミル。
「てかさてかさ、ナオ!さっき、アタシ…元気になったよね?」
ナオは少し照れくさそうに笑った。
「うん、たぶん…僕が触ったせいで?」
「すごいね!ナオお医者さんなんだ!」
ナオは思わず苦笑し、小さく頭をかく。
「まあ…困ったことがあったら、手伝うよ」
二人になったことで、ナオはいくらか気持ちが軽くなっていた。
しばらく進むと、徐々に木々の間隔が広がり、森を抜けられそうな気配が見えてくる。
「待って」
上機嫌に鼻歌を歌っていたミルの声が、突然こわばった。
ナオが視線を向けると、そこに黒い塊が見えた。
「…あれ、死んでるのかな…?」ナオは小さく息を飲む。
ミルはそれを見て、ちょっと首をかしげながら浮き上がる。
「うーん、どうだろ?でも、なんか面白そうじゃない?」
「面白いって…」ナオは思わずツッコミたくなる。
「だって、見てよ!隙間から何か見えてるし、触ったら何か起こりそうな感じ!」
「ほら、これ!」ミルの指す先には黒い結晶のようなものが。
ナオは一歩前に出るのをためらいながら、でも手を伸ばす。
「真っ黒の...水晶みたいだね。でもなんでこんなものが...?」
恐る恐る手に持った結晶を観察してみる。
突然、手のひらに熱を帯びた感覚が走る。
「なんかこれさっきミルに触れた時と同じ感覚!」
黒く濁っていた結晶の部分が、ゆっくりと透明になり、内部で淡く光を揺らめかせた。
まるで息をしているかのように、小さな力が内包されているのを感じる。
ミルは小さな手をぱたぱたさせながら、
「ねえ、ナオ!それ、アタシも触っていい?」
大興奮のミルを横目に、ナオは立て続けに起きた不思議な現象について考えてみた。
「……これ、僕のせい?」
手を触れただけで、結晶の濁りが消えた。
ナオ自身も、何がどうなったのかはっきりとはわからなかった。
ただ、さっきミルに触れたときと同じ、温かく、柔らかい感覚が手に残っている。
「僕の力…って、何なんだろう?」
ナオは考え込む。
自分が発した力が、ミルを元気にし、結晶を変化させた――偶然なのか、それとも意図的にできるのか。
「あれ?そういえばこんな感覚、前にもあったような…」
ナオは手のひらに広がる温かさを感じながら、ぼんやりと思い出す。
中学生だった頃のある日のこと。放課後、帰り道の路地裏で、小さな猫がぐったりと横たわっていた。毛は乱れ、体は細く、助けを求めるように小さく鳴いている。
ナオは恐る恐る手をかざした。
すると、じんわりと温かい感覚が手のひらから体に広がり、猫の呼吸が少しずつ落ち着くのを感じた。
一体今何が起きたのか...驚いて手を離すと、猫は少し元気を取り戻したように小さく鳴き、走り去った。その瞬間、まるで何かに導かれるかのように、路地の奥へと消えていったのを覚えている。
「……あの時も、こんな感じだった…」
今回、手に光を帯びた感覚は、あの猫を助けたときとよく似ている。
何かを癒す力なのか、浄化する力なのか、まだ正体はわからない。
でも、確かに自分の力が、目の前のものを少し変えることができる――そんな予感があった。
渡りの大地の浄化者 RAITO(らいと) @ra_i_to
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