第2話

強い衝撃を受けたあの後、俺は気を失っていたようで、目を覚したのはプロペラは折れ、煙を上げるボロボロになったヘリの機内だった。

 向かい側に座っていたガムをくれた隊員は首から上が潰れていて一目で死亡さしていることがわかった。

 その他の隊員も悲惨な姿で死んでいた。

「…じゃあな。安らかに眠れ相棒。」あまりに唐突な別れを受け入れられずじわじわと悲しみが襲って来た。いくら特殊な訓練されていて多くの実戦を経験していると言っても仲間との別れはどうもなれない。

 せめて供養してやろうと思ったが、どこから燃料が漏れているかわからない。

 もし燃料が漏れていれば爆発する危険性もある。

 慌てて仲間達のドックタグをとり、その場から離れた。

 腕時計の表示は0930。日付は変わらず7月10日だった。

 装備と身体の状態を確認して驚く。

 武器はアタッチメント含めて問題なく作動するし、体は軽傷で済んでいる。

 あれだけ派手に墜落したと言うのにここまで無事に済んでいるのは不幸中の幸いだ。

 あまりにも都合の良い状況な気もするがこの際どうでもいい。とにかくここから離れなければ結局は、死んでしまう。

 離れた位置から、タイミングよく大爆発を起こしたヘリを見て時間がないことを悟る。

 墜落した際の衝撃で奴らが寄って来ていてもおかしくない。今の爆発で多くの939集まってくることだろう。

 周囲の山を見上げて一番高そうな山に登る。

 運良く登山口を発見したため比較的容易に頂上まで登ることができた。そして周囲を見渡しながら現在地を特定した。

 無線機で仲間に送信を試みだが、どこからも反応はなかった。

 無線機の故障か?それとも自分以外全滅したのか?そんな不安に襲われながらもしばらく粘っていると雑音は多いものの返信が来た。

 安堵しながら返信を返す。

「こちらアルファ。雑多し、再送せよ。」

「_____…アルファ。こちらデルタ。無事か?無事だったら現在地を送れ。」

「こちらアルファ。自己座標を送る。…いやその前に合言葉だ。」

 なんとなく嫌な予感がしたため簡易的な確認をすることにした。しかし返答は「そんなことしている場合か!早く自己座標を送れ!」とこちらを急かすものだったためより疑わしく感じる。

 どんな時でも冷静に対処する。それが機動部隊の強みだ。

 しかしデルタを名乗る相手は冷静さに欠けている。予感は疑いへ変わった。

「合言葉。12。」

「…16」

 その瞬間疑いは確信へ変わる。

「ハズレだ間抜け野郎。」

 無線を遮断して拳銃弾で無線機を破壊した。

 無線機にはGPSが付いている。相手がそれに気づいていたとしたら、こちらの居場所が特定されているかもしれない。

 早く移動しなければ殺される。

 地図上で建物が記されている方向へ走り出す。途中ほぼ直角の急斜面もあって何度も転げそうになったし、体力もかなり消耗していて休みたいと何度も思ったが、少しずつ近づいてくる無数の足音への恐怖が俺を走らせ続けた。

 そうして到着した村の中で一番頑丈そうな校舎に逃げ込んだ。

 深呼吸で息を整えながら銃を構えて進んでいく。奴らは室内にも難なく入り込めるため、ここも安全とはいいきれない。

 しばらく校舎を警戒しながら進んでいると甲高い悲鳴が聞こえて来た。おそらく女性の物だ。

 生存者がいるのだろうか?それとも939の揺動作戦だろうか?

 現場へ向かうか一瞬迷ったが、少しでも生きた人間である可能性があるなら向かうべきだと決断して走り出す。

 生存者が、いるであろう現場は一目でわかった。数ある教室の中一室だけバリケードとして使われていたであろう椅子や机が散乱していたのだ。

 教室の中を覗くとそこには赤い皮膚をした巨大なワニのような怪物とそれに攻撃されたであろう片腕から血を流すセーラー服を着た女子生徒の姿があった。

「伏せろ!」と叫び射撃しながら突入する。化け物が怯んだ隙にうずくまって震えている女子生徒を連れて廊下へ退避する事に成功した。

 獲物を奪われて激情した939が大きな顎を開いて突進さしてくる。

「そのまま伏せとけ!」

 グレネードランチャーを化け物の口内目掛けて撃ち込んだ。

 かなり距離が近かったため、危険を感じてうずくまった女子生徒に被さる様に抱きついて防御大勢を整えた瞬間背中に凄まじい衝撃が襲ってきた。

「無事か?」

「…はい。」

 幸い女子生徒も自身も怪我はなかった。

 939に関しては、動きは止まり、顎が砕けていた。それでもまだピクピクと痙攣している。殺しきれてはいないようだ。本来オブジェクトは生け捕りにするのが望ましいがどう考えても俺一人で収容することなんて不可能だ。それなら確実に殺しておくべきだろう。

 赤い花のように顔面が裂けて開いている化け物の首に五発撃ち込んで完全に静止したのを確認したのち女子生徒を連れてその場を離れた。

「他の生存者は?」

 今にも泣き出してしまいそうな震えた声で少女は答えた。

「わかりません。ただ妹が実家に取り残されてて…」

「生きている可能性は?」

「生きてるって信じたいです。」

「そうか。了解した。再会するためにもまずは生き残らなきゃ話にならない。だから頑張れ。」

「はい…。」

 それから少女の案内で保健室へ向った。

 救急品ポーチは持っているが、衛生兵じゃないため自分用しか持ち合わせていない。

 少女の傷を治療するにはもっと多くの品が必要だった。

 幸い道中怪物と出くわすことなく保健室に到着することができた。ほっと一息つきたいところだが、まずは少女の治療が優先だ。

 ハンカチをマウスピースがわりに噛ませて傷口に消毒液をかけだ。

「んんんっ!?!」と小さく呻いたが女子生徒は大量の汗をかきながらもなんとか耐え抜いた。

 保健室にあった包帯やガーゼを使って止血してひとまず応急処置は完了した。

「よく耐えたな。」

 ハンカチで額の汗を拭いてやると女子生徒は引き攣った笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。」

 傷は塞いだが、栄養がなければ治るものも治らないだろう。

 少女が長い間何も口にしていないのは容易に想像できる。どれだけ治療しても栄養不足では傷口は塞がらないだろう。

 バックパックから経路保水液とレーションを取り出して少女に渡した。

「悪いな。不味いかもしれないがこれしかない。我慢してくれ。」

 軍人でさえボロクソにレビューするレーションをミルクティーやパンケーキとかを好むであろう年頃の少女に食べさせることに罪悪感はあったが、緊急時のため仕方がない。

 本人もそれはよく理解しているようで、素直に受け取りバクバクと食べ始めた。相当腹が減っていたようで、涙を流しながらプラスチックのスプーンを口へ運ぶ姿を見てさらに罪悪感を感じた。

「あの!ありがとうございます!あなたが来なかったら今頃私は…」

 震えながら負傷した腕を摩っている。痛み止めを飲ませてはいるが、それでも痛むのだろう。

「俺は芽島 仁という物だ。見た目通り軍人だ。君の名前は?」

「三間坂 瑛奈です!」

「了解。三間坂。奴らは目が見えない代わりにその他の五感が鋭い。そしてもうすぐ日が落ちる。何がいいたいかわかるか?」

「夜出歩くのは危険って事ですか?」

「その通りだ。だから今のうちに休んでおけ。」

「でも!芽島さんもポロポロじゃないですか!休むべきですよ!」

「大丈夫だ。君に比べれば全然軽傷だよ。ほら!せっかくベットがあるんだから今のうちに早く寝るんだ!」

「…はい。」

 三間坂は渋々傷病者用のベットへ向う。

 長い間、たった一人で939相手に怯え続けていたはずだ。

 まともな睡眠なんて取れていないだろう。

 明日からはいつ休めるかわからないのだ。

 寝れる時に寝かすべきだろう。

 

 

 

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