第8話
「俺の推論ではあるが…、少し荒唐無稽な話をしていいか?
品種改良って、解るか?
あれは、何かにとって都合がいいように、生物を定向進化…意図的に進化させる事だ。
猪は、人の飼われ、牙を、体毛を失い、人に食われるだけの肉…、豚になった。
馬は、走る速さに特化するために意図的な交配を繰り返し、その進化に人の手が関わった今では、当初の進化の目的を忘れさせられ、人の余興とステータスの為だけに存在する生物となった。
犬や猫も同じだ。鳴かない犬を作るため、比較的鳴かない犬同士の交配を何十世代と繰り返し、その過程で生み出された多くの失敗作は、処理された。飼い主の元に届いた静かで可愛いペット達は、人によって品種改良を繰り返された何百リットルもの血の犠牲の結晶なんだ。
そんな事をするのは、人間だけだ。
それだけじゃない。
人間は今まで多くの生物を絶滅させてきた。
…俺の手も、たくさんの実験動物の血で、汚れている。
その報い…。
これは、人という種に対する、自然の…地球の、復讐じゃないのだろうか?
その為に、あの鳥達は、人間に仇なす為の兵器になるように、自らを品種改良したんじゃないのだろうか?」
「な、何を言ってるんだ!」
「ああ。馬鹿な話だ。あり得ない。だが、その危険な鳥が存在しているのは、事実、だ。」
俺のその言葉で、ツトムは我に返る。
「そ、そうだ。その事実を早く軍上層部に報告しなきゃ!」
ツトムは、駐車場から基地内に続く通路に向かう。
俺も、ツトムに続く。
「幸い、まだ確認されたのは数体だけだ。いち早く発見さえできれば、いくら金属の羽を備えたツバメでも、駆逐は難しくないはずだ。」
その俺の言葉を聞いた直後。
ツトムの足が止まる。
「金属だと…。」
「ツトム、どうした?」
「さっき、レーダーが日本に向かって飛ぶ数機の正体不明の機影を捉えたんだ。」
「ああ。そう言えば、そんな事を話していたな。」
「…だが、数分後には、その機影はレーダーから消えた。まるで、小さく分離したかのようだった。」
「え?」
「現在、そんな小型サイズで運用できるような航空機は存在しない。あれは、まさか…。」
まさか。
俺は息を飲む。
「まさか、…奴らの、燕の…『群れ』か?」
時に燕は、何万羽単位での群れを作る。
機影に見える程の金属性と密度を持つ群れ…。それが数機分、確認された…。
それは、いったい、何羽になるんだ?
その群れが、日本に向かっている…。
空を黒く覆い尽くす、人を殺す為だけに存在する鋼の弾丸。
俺の脳裏に、その光景が思い浮かぶ。
「自衛隊で駆逐できないのか?」
俺はツトムに軍の出撃を促す。
「無理だ。今すぐ動ける根拠がない。それに日本の自衛隊は専守防衛だ。被害も証拠もないのに、出撃は不可能だ。ましてや、相手は自然の動物だ。」
ツトムは首を振る。
「動物? 違う。もはやあれは害獣だ。いわば生物兵器なんだぞ!」
「だから! 無理なんだよ! なにより時間がない!」
ツトムは、俺の呼び掛けに歯痒さを感じ、拳を握りしめながら、脅威迫る西の空を仰ぎ見る。
「犠牲は、出る。だが、出撃の承認に時間がかかる分、その後の軍の行動は迅速だ。鋼鉄の弾丸がいくらやってこようとも、絶対に負けない!」
ツトムは、西の空に向かって声を張り上げると、俺を連れて、隊の上官の元に向かって走り出した。
街の雑踏の中。
ミチルは、西の空に目を向ける。
ミチルの視界の先の空が、黒いナニカに侵食されていく。
人を貫く何万体もの黒い鋼鉄の刃が、青く澄みわたる空を覆う光景が、ミチルに見えた。
…その直後。
ミチルの身体を無数の時速500kmの黒い弾丸が貫いた…。
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