第5話
次の日。
サクマは、大学院内の自分の研究室に篭り、実験にあたっていた。
目の前には、研究対象のマウスが数匹、狭い檻の中で走り回っている。
だが、サクマの思考は目の前のマウスにではなく、昨夜のツトムから教えてもらった話に向いていた。
弾丸が被害者を『目掛けて』くるなんて、あり得るのか?
これじゃあ、まるで、獲物を求める動物だな。
…動物?
サクマの胸に、嫌な予感が生じた。
「あ、先輩。」
サクマの元に、後輩で助手を務める女性、ミチルが近づいてきた。
「どうしたんですか、ボーッとして。あ、でも、先輩のボンヤリは、いつものことですかね。」
「うるさいな。」
ミチルの軽口に、サクマは文句を返す。
「はーい。すみませーん。」
ミチルに悪びれた様子はない。
「まったく。」
いつもの光景だ。サクマは微笑む。
「何か考え事ですか?」
「ああ。先日から続いてる謎の死傷事件について考えてたんだ。」
ミチルの顔が曇る。
「嫌な事件ですよね。私も、この前、事件の現場を見ちゃったんですよ。」
「それは災難だったね。」
「はい。…あ、その時に、変な物を拾ったんですよ。先輩に見せようと思って、持ってきたんです。」
と、ミチルは鞄からハンカチに包まれた例の黒い刃物を取り出し、サクマに渡す。
「…これは!」
サクマの顔に、驚愕が浮かぶ。
「なんですかね、これ?」
サクマは、刃物を手に取り見つめながら、
「君はこれを例の死傷事件の現場で拾ったんだよな?」
とミチルに問いただす。
「はい。そうです。」
サクマの表情は、硬い。
「これ、しばらく借りるよ。」
白衣を翻し、サクマは研究室を後にした。
研究室のドアに、その研究室の名前が書かれている。
『生物学研究室』と…。
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