第4話

ある日のニュース。

『本日未明、人体の一部が、突然に貫かれるという事件が発生しました。被害者は即死。被害者に同伴していた妻によると、「突然光の塊が夫を貫いた」「光の塊は、夫を目掛けてきた」と証言しており、先日より続いている連続死傷事件との関連が予測されます』




「じゃあ、二人の再会を祝して」

「乾杯!」

居酒屋で、二人の男性がビールで乾杯をしていた。

ガチャン。

ジョッキからビールが零れるほどの勢いで、二人はグラスをぶつけ合う。

二人とも古くからの付き合いようで、互いに遠慮はない。

「いや、まさか、サクマ。お前が学者になるとはな。理数系は苦手だと思ってたぜ。」

「お前こそだよ、ツトム。あの運動音痴が、今は自衛隊所属とはな。しかも昇進してるんだろ?」

白衣の似合いそうな学者風の男は、サクマ。

背が高く、体格のいい男性は、ツトム。

二人は中学高校と同級生であり、今日は久しぶりの再会を祝して盃を交わしているのだ。

お互いの近況や他の友人の様子、日頃の不満を語り合う二人。

二人のいるテーブルに、空き瓶と空の皿が散らかっていく。

「自衛隊での生活は、どうだい?」

「規則に規律に階級に…。決まり事だらけでうんざりだよ。お前こそ、大学の研究室はどんな感じなんだ?」

「お前の所とあまり変わらないかもな。立場とか利権とか…、成果が握り潰されるなんて、日常茶飯事だ。」

「確かに、自分より周り…というか集団の在り方を第一になってるのは、あんまり変わらないかもな。」

「まあ、それが、人類が到達した社会性の結果だからな。仕方ないさ。」

「お、やっぱり学者様は言うことが違うね。」

「よせよ。…だけど、その社会性の強みが、野生の生物と違うところだ…。」

それから。

互いの愚痴に耳を傾け続けて。

二時間後。

鳥の唐揚げをビールで流し込みながら、ツトムは店の中にあるテレビに目を向ける。

テレビでは、最近発生している謎の死傷事件が報道されていた。

「…またか。」

「どうした?」

サクマは、日本酒片手に刺身を摘みながら、テレビを見つめるツトムに声をかける。

「…いや。食事時に話すことでもないんだ。すまん。」

「別に構わないさ。」

「そうか。ま、そういや、お前はそういう奴だよな。」

「なんだよそれ。」

「いや、空気読まないのは、お前の専売特許だと思ってさ。」

「余計なお世話だよ。」

二人は、互いの言葉に笑い合う。

「で、どうしたんだ?」

サクマは、ツトムに話の先を促す。

「ああ。最近な、奇妙な死傷事件が続いてて、な。」

「さっきやってたニュースか。何かに貫かれたとか、切り落とされたとか…。」

「…これは他言しないで欲しいんだが…。」

「おう。」

「傷の原因が、解らないんだ。」

「ほう?」

「人体を貫く程の衝撃なんだから、何かしらの銃器から発射された弾丸とかなんだろうけど…。」

「うん。」

「傷跡の様子が、奇妙なんだ。従来の銃器なら発生するはずの熱による熱傷がない。」

「銃弾で貫かれたなら、普通なら熱の跡が残るもの、か。」

「ああ。しかもその傷跡の形は縦横に長い。弾丸というより、鏃(やじり)に近いもの、らしいんだ。」

「どういうことだ?」

「例えるなら、銃弾ではなく、弓矢で貫かれたような傷跡なんだよ。けど、弓矢にそんな威力はない。」

「確かに。」

「目撃者によれば、何かの反射光や、黒い何かが過った、とか目撃情報はあるんだが、どれもはっきりしない。」

「…それほどの速度のモノ、ということか。」

「ああ。その上、あれだけ殺傷事件が頻発しているのに、その弾丸…らしきモノや、類するモノが発見されないんだ。」

「…そんな事、あり得るのか?」

「わからない。だから、あの連続死傷事件は、諸外国の新兵器によるテロなんじゃないかと、隊の中では噂されてるんだ。そのせいで隊は今、ピリピリしてるんだ…。」

「…なるほど、な。」

「それに他にも、目撃者の証言の中で気になることがあって、な。」

「うん。」

「どうやっても狙撃不可能な細い路地での被害や、複数の人間のが同時に貫かれるとか、普通の銃器ではあり得ない状況が確認されている。」

「つまり、その弾丸は、『被害者に向けて曲がった』ということか?」

「…その可能性もある。だが、たった一つ、確実な事がある。全ての事件は、屋外で起きている、ということだ。」

「…。」

ツトムの話を聞き、サクマ考え込む。

黒いナニカ。

鏃のような形。

高速の物体。

銃弾の様な熱を持たない。

曲がる。被害者に向けて。

そんな銃弾は…。

「あり得ない。」

サクマはそう呟いた。


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