第22話 古巣再訪へ

――――【哪吒目線】


 翌日。


「ありがとう、日向くんのお陰ですっかり綺麗になったよ」

「俺も部員だし、当然かな」


 不良たちに不法占拠されていた部室をすべて片付けていた。要らないもので、まだ使えそうなものはウルカリ送りにする。雀卓など本来学校にあっちゃいけないものもあるので。


 郷里先生が「売ってヨシ!」と処断を下したのでお言葉に甘えさせてもらう。ダンジョン探索を行うなら少しでも活動資金が多い方がいい。


 引き出しの整理をしていると部員名簿を見つけた。


 ぴらひらとページを捲っていくと……あれ?


「森野部長って俺とタメじゃなかったんだ」

「三年です、年増とでも仰りたいのですか?」

「とんでもない。俺より年下に見えてかわいらしいなって思ったんだ」


「……そ、そんな煽てに乗るほど……森野流忍術は……チョロく……しゅ、しゅき」

「森野先輩?」


「な、なんでもありません。ちょっと取り乱しただけです。年上を揶揄からかわないでください。それにダンジョン内で年の功など何の役にも立ちません。能力が高い者が率いていくべきなんです」


 更に名簿を捲っていくと数人の生徒が迷宮部に所属していたらしいが、その多くの名前に黒い縦線が入っていた。恐らく退部したんだろう。


「実は……部員はあと三名いるのですが……みんな、自分の実力のなさに打ちひしがれてしまったんです。最弱だと思っていたスライムにすら弄ばれて……」

「あるあるだなぁ」


 ちなみに迷宮探索校の生徒と普通の学校の生徒ではメジャーリーガーと高校球児くらい能力に差があると言われている。俺がパラパラと名簿を捲っていると各部員の自己紹介が載っていた。


 そのとき、 トントンと部室のドアがノックされた。俺が応対しようとすると……。


「私が出るよ、日向くんはゆっくりしてて」

「あ、はい」


 シノブのお言葉に甘え、俺はまた名簿に目を移す。彼女の自己紹介を見ていると気になることが書いてある。


 尊敬するダンジョン探索者 蘆屋晶……。


 東の御門流、西の蘆屋式。陰陽道における二大組織で蘆屋晶は蘆屋式の首魁しゅかいを若くして引き継いだ人物だったと聞いたことがある。だがすべては彼女の起こしたテロ事件でその身分は剥奪されたと……。


「そうか……」


 ようやく俺の頭の中で点と線が繋がり、思わず独り言ひとりごちる。黄昏学園の迷宮科がなくなった理由、活動休止と言っていい迷宮部を独り守り続けたシノブ……。


「そんな! 横暴です、急過ぎますよ!」


 そのとき、外で応対しているシノブの声が響いた。俺が外へ向かうとシノブが腕章をつけた集団に囲まれ、なにやら詰問されているようだった。


「と言われてもねえ……森野部長、迷宮部の活動報告はいつ提出してくれるのかね? それに……」


 腕章には生徒会と記載されている。


「部員の姿が見えないようだが?」

「今日はお休みしてるんです」

「いつもそうだな。いい加減見え透いた嘘は止めたらどうかね?」


「一ヶ月だ。それまでに部員五名で明確な活動実態を報告しなければ迷宮部は廃部とする」

「そんなっ!?」


 俺が出て行ってどうにかなる問題か分からないがシノブ一人では不安なんじゃないかと思い、彼女の隣に歩み出た。すると詰め寄っていた男子は手で前髪をかき上げながら言い放つ。


「ふっ、これはこれは。迷宮探索校を追放された転校生、日向哪吒くんではないか」

「はは……俺って、そんな有名人なんですね。ちなみにあなたの名前を知りません。教えていただいても?」


 シノブに詰め寄っていた男子に、俺は自嘲気味になりながら訊ねたのだが……。


「ばっ、馬鹿にするな! 私は黄昏学園で最も有名な生徒会長だぞ! 石動大吾だ!!!」

「俺はあなたのことを馬鹿にした覚えはないんですが……そもそも初対面ですし」


 何故か、彼は激怒しながら自己紹介をしていた。


「うるさい! 私が馬鹿にされたと思えば、おまえは私を馬鹿にしているんだ。そんなことも分からないのか!」

「分かりません」

「なっ!?」


 率直に答えると石動会長は唖然としていた。会長が言ったことを鵜呑みにすると、彼の主観で何でも物事が決められてしまう。


「と、とにかくだ、活動実態としてはダンジョン20層まで到達し、階層ボスの髑髏卿スケルトンロードを倒す。それで迷宮部の活動実態と認めよう」


 んー? 会長、ずいぶんとダンジョンについて詳しくないか? まあ配信をよく見るダンジョン愛好家なら知っててもおかしくないか。


 いや愛好家ならもっと迷宮部を優遇してくれても良いんじゃないか、とも思うが……。


「そうか、分かった」

「日向くん!?」


 シノブは俺が返答したことに驚いていたが、どの道思想強めの会長が迷宮部を潰す気まんまんてある以上、彼の提案を飲む他ない。


「待て、まだ条件を言っていない。腐ってもキミは迷宮探索校出身。キミが戦闘に加われば簡単に課題をクリアしてしまうことだろう。だからキミ以外の部員でクリアしてもらう」


「そんな条件、不利すぎるよ! 明らかに迷宮部を潰そうとしてるじゃない!」


「そうだが? 我々は散々キミたちに猶予を与えてきた。ま、私も鬼ではない。世間では寛大な生徒会長として知られているからな。日向くんにはキミはアドバイスをすることだけを許そう」


「分かりました。でしたら、俺たちが会長の言う通りに攻略できたら、迷宮部存続を確約してください。あと活動費を他の部と同等に戻して欲しい」

「分かった、約束しよう」


 会長たちは迷宮部の部室から立ち去ろうとするが、俺はもう一つ大事なことを彼らに伝える。


「このことをきちんと書類にしてもらえますよね?」

「くっ! 分かった分かった! そうすればいいんだろう!」


 この手の輩は俺たちが課題をクリアしようとも口約束だとか言って、約束を反故にしてくる。部室の整理をしていると会長たち生徒会に対する不満を募らせたメモがたくさん残されていたのだから。彼らの無念をようやく晴らせる機会を俺は得た。


 彼らが去ったあと、シノブが囁いた。


「ありがとう、日向くん……」

「よろこぶのはまだ早いですよ。迷宮探索で課題をこなす前に色々と準備が必要になりました。ちょっと古巣に戻って、準備してきます」


 迷宮探索計画書を協会に提出すれば、武器の携行が許される。俺は迷宮探索校に預けっぱなしの黒帝と氷妃を取りに行くことに決めた。

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