第21話 ハニトラのつもりが逆に絆されてしまうチョロイン
――――【哪吒目線】
「くそったれ! 何て馬鹿力してやがるっ!」
いきなり俺を殴ってきた金髪の不良の拳を手のひらでキャッチし握り締めると、不良は涙目になり悲鳴を上げていた。
しまった!?
咄嗟だったからフルパワーで握り込んでしまった。手の甲の中手骨と中手骨の隙間に俺の義手の指がめり込み、血が勢い良く流れ出ている。
「オレの蹴りは木製バット三本ぐらい折ってしまうくらい強力だ! てめえのやわな骨なんてポッチーみてえにすぐ折れんぞ!」
ポッチー草。
不良とは思えないかわいいフレーズに笑ってしまう。ちなみにポッチーとはスティックタイプのプレッツェルにチョコレートがコーティングされたお菓子のこと。
「何笑ってんだ! 殺すぞ、ゴラァァ!!! もらったぁぁぁ!!!」
腰を捻り、力を充分に溜めた蹴りが俺に放たれる。ローキックかな? と思わせる軌道から股関節を上手く使いハイキックに切り替えてきた。
「へえ、大雑把に見えて繊細なテクニック使えるんだ」
やばっ!
心の中で誉めるつもりがうれしくなって、本音が口に出た。
「ほ、骨がぁぁぁぁ! 折れてるぅぅ!!!」
だが俺が誉めるより先に向こう脛を抱えてうずくまってしまっている。ポッチーは俺がチタン合金ボディのアルマダでガードしたことで骨がポッチーよろしくポッチリ折れてしまったみたい。
最後に残った不良は、首筋や手首からカラフルなイラストがちらちら顔を出しており、目つきは何人か殺めていそうなくらい悪かった。
殴り掛かろうとしてきたので、俺は真っ直ぐ彼の目を見据え前に出る。
「ふざけ……」
「二人はお疲れみたい。キミは当然俺のリハビリに付き合ってくれるんだよね?」
「ひっ!?」
俺が間合いを詰めていくと、落書きくんはしりもちをついてしまう。
「何やってんだ!!!」
騒ぎを聞きつけたのか、ジャージを着た体育教師らしき大人がやってきた。
「「「げっ、郷里!?」」」
不良たちが顔をしかめた。どうやら黄昏学園の教師で不良たちにも畏れられているらしい。名を体を表すと言うが、ちょっとゴリラっぽい雰囲気はある。
教師は部室を見回し、何か理解したようだ。
「貴様ら、まさか女子生徒に乱暴を……」
俺の制服の袖にはポッチーから蹴られた跡がついており、俺の後ろには制服を脱ぎ、いつの間にか下着姿になっていたシノブ、そして俺に返り討ちにあった不良たち……。
「ちがうっ! オレらが来たときはこいつは脱いでたんだよ!」
「そうだ! そこにいる二人がヤろうとしてただけだ!」
「オレたちは無関係だ!!!」
シノブはうつむいて、悲しそうな表情している。
「うるさい! ちょっと来い! 暴行だけじゃなくすでに煙草や酒も吸っているようだからな!」
若干冤罪のような気がするが、未遂とも言えるので擁護するのは止めておく。
「キミが噂の転校生か。転校初日から災難だったな。こいつらはおれに任せておけ」
俺は志麻姉ちゃんの保健室に入り浸っていたにも拘らず、咎められずに済んでしまった……。
不良たちはまとめて男性教師に引き摺られながらドナドナされていってしまった。かなりパワフルな先生らしいので、機会があれば稽古つけてもらうのもいいかもしれない。
部室に残された俺とシノブ。
「危ないところをありがとうございました。このご恩をお返ししたいのですが、私には身体でご奉仕するくらいしか……」
「マジ!? だったら……」
俺はシノブのセーラー服からはみ出した棒手裏剣を拾い、彼女に手渡した。
「え? これって……」
「森野さんは忍者の末裔なんでしょ? 俺のリハビリを手伝って欲しいんだ」
「あ、えっと……」
「身体でご奉仕してくれるんでしょ?」
「そ、そういう意味じゃ……」
「ダメ?」
「は、はい……構いません、お手伝いさせていただきます……」
良かった! 面白いリハビリができそうだ。
――――【シノブ目線】
日向哪吒とアドレスを交換し、また明日部室で会おうということになった。
そのあと、私は行かねばならない場所に移動する。刑務官が受刑者を連れて面会室に入ってくる。手首には手錠、腰には腰縄が付けられもう一人の刑務官が縄を掴んで緊張の面持ちでいる。
受刑者の腰縄は解かれたものの、手錠は外されることなく私と壁を隔てた向こうの椅子へ移るよう刑務官から促されていた。
燃えるような深紅の赤髪が特徴の受刑者が私を見て、叫んだ。
「シノブ!」
「晶先輩!」
受刑者の名は
だった……。
東都区内の電気街で一般人を巻き込む無差別テロを犯して英雄から一転、大罪人に堕ちてしまった。
「シノブ……もう来なくていい。キミは私など忘れて自分の人生を歩んでくれ」
あれだけ希望に満ち溢れた瞳は濁り、下瞼には酷い隈ができている。眩しいくらいキラキラしていた赤髪は土気色に曇り、光沢を失っていた。
晶先輩は席を立ち、刑務官に面会を終える合図をしようとする。
「待ってください! 学園にあなたの
「救済者だと?」
「はい……先輩は日向小次郎をご存知ですよね?」
私がレジェンド級の探索者の名前を出した途端あれほど濁っていた瞳に炎が宿る。乾いた肌は血色が戻り、熱を帯びていた。
「私の憧れのダンジョン探索者で目標だった方だ。彼を知らないなどダンジョン探索者を冒涜していると同義と言える」
「その日向小次郎の忘れ形見が迷宮部を訪れました」
「何だって!?」
ガタッと音を立て、晶先輩の座っていた椅子が床に倒れた。先輩が勢い良く立ったからだ。刑務官が「静粛に!」と声を掛けると晶先輩は一礼、椅子は元の位置に戻される。
「しかし、どうして偉人の令息が学園になど……私のせいで、もう探索科は残っていないというのに」
私は晶先輩に彼から聞いた学園に来た理由を説明する。
「ふむ……。理由は分かったが両腕を失った状態でダンジョン探索など自殺行為に等しい。シノブが彼を推す理由が分からないな」
「私の隠蔽スキルを見破った上に赤井、青木、黒瀬の三人掛かりを義手で易々と叩きのめしました。私の見立てでは彼がD級探索者というのは詐称と言えるでしょう。こう言ってはなんですが晶先輩以上の能力を隠していると思われます」
「うううう……」
「……先輩!?」
晶先輩は頑丈なポリカーボネート製の窓に手をつき、慟哭する。
「シノブ……頼む。私に希望を持たせないでくれ。私はここで生涯を終えなければならないほどの罪を犯した……。たとえ仕組まれた罠であったとしても私は彼らを守れなかったんだ……」
晶先輩の面会を済ました帰り道……私は分からなくなった。
今私がやろうとしていることが正義なのか?
晶先輩がやったことは正義そのもの、だけど彼女の正義感は悪い方向に利用されてしまった。彼女の成功を妬む者たちによって陥れられた。
地上に不可視の魔物が現れたあのとき、陸自に災害派遣を要請しても迷宮探索協会の腰は重かった。
彼女はたとえ罰せられようとも無辜の人々を守ろうと単身魔物を討伐に出たが、何故か世界に配信された映像は彼女が無辜の人々を惨殺し、鮮血を浴びるものになっていた。
彼女のような誠実な人間が罪を背負い、本当に罪深い者たちがのうのうと自由を謳歌するなど、私には到底許せるものじゃない。
彼女に嫌われようとも、どんな手段を使おうとも私は彼女を救い出してみせる!
それにしても日向哪吒だ。
馬鹿でか弱い女を装い、ハニートラップを仕掛けたけど、なかなか食えない男だった……。噂では彼女に浮気された上にこっぴどく振られたと聞いていたのにまるで女には困ってないと言わんばかりの態度……。
悲しむどころか、私が赤井たちにいやらしいことをされてないか心配してたくらい……。
私はそんな見え透いた優しさに絆されたりなんかしないんだから……。
絶対に……。
絶対に……。
私が固く決意したときだった。ピコン♪ とスマホが音を立て、メッセージが届いたことを知らせてきた。
哪吒
《明日リハビリに付き合ってもらえるとうれしい》
シノブ
《うん! 絶対付き合うね! 楽しみ》
送信っと!
はっ!?
彼からのメッセージがうれしくて、演技ではなく素で返信してしまった……。
ゆ、許せない! 忍者の私からこっそり乙女心を盗むなんて!!!
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