第23話 復活の双剣士はまたヒロインを曇らせる

――――【アリシア目線】


「えっ?」


 10層から、あと2層上がればダンジョンから出れるところまでたどり着いた。少し開けた場所で休憩を取る間、スマホを見ると通知が凄いことになっている。


―――――――――――――――――――――――


○じょんそん 1分前

英断


○豪傑 1分前

アリシア女前過ぎる


○あゆみ 2分前

あんな格好いい啖呵、一度で良いから言ってみたい


○メントス 2分前

ごめん、おれ アリシアがカイザーのハーレム要員だとばかり


○めんつゆ 3分前

カイザーって、何か横柄だから感じわる

アリシアが何であんな男と同じパーティーなのか分からなかった


○D活 5分前

何かソーマに弱みでも握られてんのか、みたいな


○それでもダンジョンは美しい 6分前

アリシアは孤高の華エーデルワイス

 ―――――――――――――――――――――――


「なんだっ!?」

「スゴいのー!!」


 それは私だけでなく筧さんや有栖川さんも同じだったみたいだけど。


 私はてっきり視聴者から風見鶏や裏切り者と責められるものだとばかり思っていた。


 もちろんそれも覚悟の上でのこと。


「良かった、みんなが悪く言われなくて」

「んなこと、気にしねえよ。むしろアリシアは良く決断したよ。あそこでアリシアが網代に言ってなきゃ、あたしは網代のつまんねえ奴隷のまんまだったかもしんねえんだ」


 二人で探索ボイコットが上手くいったことに胸をなで下ろしているときだった。


 こんなとき一番寂しがりで甘えたがりの有栖川さんが傍に寄ってこなかった。


 筧さんと視線を移したときには既に遅く……。


「いやぁぁぁっ!!!」


 有栖川さんの甲高い悲鳴がダンジョンの低い天井に反響していた。


「有栖川さんっ!!!」

「れもんっ!」


 私たちが有栖川さんに近づこうとしたときには周りを十人ほどの男たちに囲まれていた。


「うるせえ! 暴れんじゃねえ!」


 有栖川さんは後ろから反社風の男に羽交い締めにされ、彼女の首筋にギラリと光る鋭利なナイフが突きつけられている。


「まさかEHエクスプローラハンター!?」

「んほぉぉぉ、ご名答ぉぉぉ!!! 見事正解したアリシアちゃんにはオレたちからビッグな孕ませ棒をプレゼントしちゃうから感謝しろよぉ!」


 有栖川さんの背後からリーダーと思しき男が出てくる。ナイフの腹を手のひらの上で弾ませ、私たちに近寄ってきた。男は顔にまでトライバル柄のタトゥーが入っており、とても堅気には見えない。


 EHと呼ばれる彼らは命からがら深層から帰還しようとする弱った探索者から金品を奪ったり、性的暴行を加える言わば非合法の探索者……。


 いえ探索者などと呼ぶのも烏滸がましい存在。


 当然、迷宮探索協会に登録していない潜りで落ち武者狩りとも称され真っ当なダンジョン探索者からは忌み嫌われている。


「おまえら今日はマジで上玉だ。何たって御門家のご令嬢アリシアちゃんに、並みのギャルモデルじゃ歯が立たねえくらい抜群のプロポーションの筧美里、そしてJKロリV Tuberのれもんたん! オレらの精力をすっからかんにできる絶好の種付け相手だ!」


 吐き気がする。


 男たちから寄せられる気色の悪い視線。電車で痴漢と思しき男から向けれた気持ちの悪さなど比較にならない。悍ましく思えるほど私たちに向けられる野獣の性欲……。


「コイツの命が惜しけりゃ、オレらにご奉仕してくんね?」


 羽交い締めされた上に首にはナイフ、身動きが取れず震える有栖川さんにEHのリーダーは彼女の服にナイフをあてがう。ブラウスの胸元のボタンとリボンタイの紐が切られて有栖川さんの素肌が晒されてしまった。


「止めろ! れもんに手を出すな!」

「おっと! 近づくんじゃねえよ。Sランクパーティーの攻撃の要、筧美里の一撃なんてくらおうもんならオレたちでも一溜まりもねえからな」


 有栖川さんにナイフの先端を突きつけ、筧さんを脅していた。


 筧さんが叫んだところでリーダーの手が止まることはなく、ダンジョン内には男たちの下卑た笑い声が響いていた。


 私と筧さんは身体を寄せ、男たちに聞こえないくらい小さな声で作戦を練る。


「くそっ、こんな下衆な男たちに……。しゃぶってやるつって噛み千切ってやっか?」

「か、噛み千切る!?」


 も、もしかして男の子の硬くて、熱くて、そそり立つものを!?


 保健の授業でデフォルメされたものしか見たことのない私にそんなことができるのか……。


 男たちはズボンのベルトを緩めながら、徐々に私たちとの距離を詰めてくる。


 それでも動かない私たちに業を煮やしたのか、リーダーは有栖川さんのブラウスの両襟を掴んだ。


 ビリビリビリッ!!!


 一気に引き裂いて、有栖川さんのピンク色の下着が露わになる。


「い、いやぁぁぁ……見ないで! 見ないでっ!」


 ひ、酷いっ!


「おらおら、早くしねえとれもんちゃんがひんむかれて、世界中にお豆さんとロリまんご開帳になっちまうぜぇ!」

「や、やめてぇ……そんなことしないでぇ……」


 攻撃に特化した荒魂式神は颯真のRTAのために使い切ってしまってる。私の身体はどうなってもいいから、秘術【幽離魂魄よもつのいざなみ】を使って救援を呼ぶべきか……。


 颯真と結婚しなければいけない運命なら最初は好きな人と思ったけど、有栖川さんの安否の方が大事。


 颯真が良く言ってるマグロ女……。


 意識を失った私の身体は彼らにマグロとあざ笑われながら、犯されるんだろう。


「何してんの?」


 聞き覚えのある優しい声がしたので振り返ると……。


「日向くん!?」

「哪吒!」

「なたくん!!!」


 両腕を失ったはずの彼にはちゃんと腕があった。


「みんな、久し振りって雰囲気じゃないよなぁ……」


 しかもこめかみを指で掻いて、私たちの陥った状況に困惑しているようだった。


 もしかして義手!?


 義手について詳しくないけど、あんなに人の腕と変わらないように滑らかに動かせるものなの?


「てめえ! 何者だぁ?」


 日向くんに私たちを取り囲んでいた男の一人が突っ掛かっていった。リーダーが叫ぶ。


「おまえらは黙ってろ。ハハハ、こいつはおかしくて笑えてくるな。ついこの間、パーティーを追放された双剣士じゃねえか。のこのこやってきて、ヒーロー気取りか? 生憎ここはオレらのヤリ場なんでなぁ! そこのれもんたんの命が欲しけりゃ……えっ?」


 ゴキッ。


 リーダーが日向くんをあざ笑うような口上を言っていたが、私たちの視線と割れるような音に気づいて振り向いたときには有栖川さんを拘束していた男の手首が在らぬ方向に向いていた。


「えぎゃぁぁぁ!!! 手、手がぁぅ」


 よく見ると手首が曲がってるんじゃない。前腕から開放骨折して、手の甲が二の腕にくっつきそうになっていた。


 日向くんは動いた形跡はない。


 ただ反社の男たちを静かながらも怒りに満ちた目で見ているだけ。


「くそったれ! おまえら、そいつらを始末しろ! オレは……」


 リーダーが手首の折れた男に代わり、有栖川さんにナイフを突きつけようとしていた。


 だけど……。


 私たちの傍にいた日向くんの姿が消え、気づいたときには宙に二つの前腕が飛んでいた。前腕を飛ばされたリーダーは声すら出せないほどの神速の斬撃……。


 私も筧さんもただただ息を呑むだけ。


「前より速くなってね?」

「え、ええ……」


 まだ事態が飲み込めていない私たちだったが、冷静さを取り戻したときにはリーダーの首筋に後ろから何者かが苦無くないを突き付けていた。


「おい、そこの男。おまえは迷宮刑事法を知っているか?」

「知らねえな! だったら……何だって、うぐっ」


 何者かは男の喉に苦無を押し当てるとそのまま掻き切った。


 カットスロート……。


 首から鮮血を吹き出し、人形のように崩れ落ちる男……。彼女は返り血を浴びながらも眉一つ動かしていない。


「迷宮探索者同士は互いの生命を尊重し合わねばならない。だが協会に未加入の者については迷宮内に於いて人権はないものと規定されている。もし地獄に堕ちずに転生することがあれば覚えておけ。まあ無理だろうけどな」


 倒れたリーダーの後ろにいたのは口に黒いマスクをしたセーラー服姿の美少女。艶のある黒髪のボブカットが印象的だ。


 学ラン姿の日向くんとセーラー服姿の彼女……。もしかしたら彼女が日向くんの転校先でのパーティーメンバーなのかもしれない。


 リーダーが息絶えたことを見た他の男たちが蜂の子を散らすように逃げようとするが、何故か足をじたばたさせるだけでまったく進めていなかった。


 日向くんと彼女は反社たちが必ず同じことを繰り返すと告げて、片付けてしまう。食うか食われるか……。もうすでに血の匂いを嗅ぎつけ、子犬くらいの大きさの肉食昆虫アーミーアントが集まってきてまだ息のある男たちを巣へ運んでいった。


 そんな光景とは裏腹に有栖川さんは半分涙目、半分笑顔で日向くんにハグしていた。


「なたく~ん! れもん怖かった」

「有栖川さん!?」

「なっ!?」

「えっ!?」


 私と筧さんとボブカットの女の子が有栖川さんのあまりにも無邪気過ぎる行動に唖然とする。こういうときって、幼い見た目だと許されてしまう空気が許せない。


 私だって怖かったし、あんな男たちに貞操を捧げるとか考えただけで足が震えてくる。世間体や恥や外聞を捨て、私も日向くんの胸に飛び込みたいのに……。


「れ、れもん……みんなが見てるって……」

「だって怖かったんだもん……」

「そっか、なら仕方ないな」


 日向くんは有栖川さんの頭をまるで彼女のお父さんにでもなったかのような優しい手つきで撫でていた。


 わ、私だって!


 そう思い、一歩踏み出そうとしたときだった。


 私の腕はボブカットの女の子に捕まれていた。


「あなたがいくら名門御門家のご令嬢だとしても、日向くんを追い出したことに変わりない。日向くんは私のパーティーメンバーなの。彼に近寄らないで欲しいな」


 彼女の言葉で私の心に深いくさびが打ち込まれた。日向くんを擁護できなかった苦しみ、彼の新しい仲間……しかも美少女であることへの嫉妬。刺さった楔に抉られズキン、ズキンと重苦しい痛みが走っていた。

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