第9話 好きな人に彼女がいて曇るヒロインたち
――――【哪吒目線】
アリシアたちに引かれ、ミーティングルームに着いたかと思うと開口一番にアリシアから切り出された。
『日向くん、気をつけなきゃ。あなたに近づいてくる女の子には……。またお人好しが出てハニートラップに引っ掛かるところだったわ』
え?
『そうそう、日向はすぐ騙されっから』
美里はパイプ椅子に腰掛け足を組むと、腕を上げて大きく背を反らす。彼女の豊満な胸元が強調されてしまい、目のやり場に困る。
『みんな、酷いよぉ。なたくんのこと悪く言っちゃダメ!』
れもんが小さな拳でぽかぽかとアリシアと美里を攻撃し始める。
『うにゅにゅっ! うにゅにゅっ!』
が、美里がれもんの頭を抑えてしまい、拳は当たることなく虚しく空を切っていた。
アリシアたちは俺がよくハニートラップに引っ掛かると言うが、俺の記憶にそんな出来事はない……。
ここは無理に否定するより彼女たちに意見を合わす方がパーティー内の意思疎通が円滑に進むと思い、あえて否定はしないでおいた。
ただゆきの名誉のためにも誤解だけは解かないとならないので……。
『えっと、ゆきは俺の幼馴染みで……えっと、その彼女と言っていいのかな?』
お互いに過ごすうち、自然に彼氏彼女みたいな関係になっていたと思う。思うというのはお互いに告白したりしていないから。
『えっ!?』
『マジかよ……』
『嘘、嘘、嘘っ!』
アリシアは口に手を当て絶句している。
美里は額に手を置き、天を仰いだ。
れもんは首を左右に振って俺が言葉信じられないといった様子。
三人に告げると三者三様に驚いているようだった。
そうだよな……。
俺みたいに冴えない男に彼女がいるなんて伝えたら驚かれるに決まっている。
だから今まで彼女たちに告げずにいたんだけど。
『アリシア!?』
『ありりん!?』
俺が恥ずかしさの余り頭を抱えていると美里とれもんが慌てている。アリシアを見ると手はだらりと垂れ下がり、腰は椅子からずり落ちそうになっていた。
『き、気を失っている!?』
頑張り屋のアリシアのことだ。昨晩も遅くまで鍛錬を重ねていたんだろう。鍛錬は大事だが身体を壊しては意味がない。あまり無理はしないように言わなきゃ……。
『とにかく保健室へ運ばなきゃ!』
『あ、ああ……』
『う、うん……』
気を失っていても|眠り姫《》と呼ぶに相応しい輝きを放つアリシアに触れていいのか戸惑ったが、ミーティングルームに男手は俺一人……。
それにただ気絶しているだけなら安静にしていれば回復するかもしれないが、アリシアが俺の妹の雛子のように何か持病があったりしたら一大事!
しく
一刻を争か俺は意を決して、アリシアの首元に左手を、膝裏に右手を差し延ばし彼女の身体を抱き上げた。
ふわりと銀の髪が揺れるとシャンプーの良い香りが鼻腔をくすぐる。人肌が触れ合うと、そこから彼女の温もりが伝わってきた。思った以上に軽くて、羽毛布団を抱えているんじゃなかってくらいだった。
『ちっ! アリシアが羨ましいぜ……』
『気絶してるから覚えてなさそう……』
美里が舌打ちしてるようだったが、そのあとの内容が声が小さく拾えない。
さっさとしろ、グズ! とか言われているのかもしれないので俺はアリシアを両腕に抱えてたまま保健室へと急いだ。
ベッドに横になったアリシアの横顔を三人で見つめる。壮年の養護教諭にアリシアを診せると気を失っているだけで命に別状はないとのお墨付きをもらっていた。
このままずっと眠り姫を見つめていたくなるような美しさだが、そろそろ授業が始まるので戻らなくちゃならなかった。
翌朝、ショートホームルームでサトセンから告げられた。
『あー、今日は御門、筧、有栖川の三人は休みだ』
『えーっ!?』というクラスメートたちの悲鳴にも似た声で教室がとよめく。
そりゃそうだろう。
迷宮探索校のアイドルが三人とも学校を休んだのだから。って、美里とれもんは元気だったのになぜ? そんな疑問が湧いてくるが……それよりも。
俺だって三人と会えないのは寂しい。
超絶美少女たちが俺みたいなのに構ってくれること自体が奇跡。そんな奇跡を味わう機会が減ってしまったんだ……。
その日の学校はまるで火の消えた真冬のログハウスのような雰囲気になってしまっていた。
三人ともダンジョンの瘴気を浴びて風邪でももらってしまったんだろうか? いや、直近で探索には出てないはずなんだが、みんな一体どうしたんだろう?
身体の小さなれもんでも、そんじょそこらの男の子に体力負けなんてしないはずなのに……。
結局ゆきの誤解が解けるまで三人の風邪が治るまでお預けになってしまった。
――――【アリシア目線】
はっと目を覚ましたら外の景色はすっかり暗く、下校の時間を過ぎているようだった。
『えっと、ゆきは俺の幼馴染みで……えっと、その彼女と言っていいのかな?』
哪吒くんの彼女いる宣言を聞いて、目の前が真っ暗になり……それからの意識が途切れているので、どうやら気を失ったらしい。
『アリシア!』
『ありりん!』
胸が苦しいけど、ずっとこのまま寝てる訳にもいかないのでベッドから起きカーテンを開けると、美里さんとれもんさんが今にも泣き出しそうな顔で駆け寄って来る。
『ごめんなさい、二人に迷惑を掛けてしまったみたいで……』
『そんなこと気にすんな……』
私が起き上がったというのに美里さんの表情は暗いままだ。いやどちらかと言うと怒気を孕んだようにも見える。
『アリシアだけずりぃぞ! 日向からお姫さま抱っこで保健室まで運んでもらえたなんて!』
『そうだ、そうだ! ありりんだけ狡い!』
嘘っ!?
私……気を失ってる間に日向くんの腕の中に抱かれていた?
私の馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!
どうして気を失ってしまったの……と思ったけど、気を失わなかったら彼の腕に抱かれることもなかったはず……。
次こそは秘術【
そうだった……。
彼にはゆきさんという彼女が……。
私がまた泣き出しそうになっているとれもんさんが私の胸元に寄って来て泣いてしまった。
『ぐすっ、ぐすっ』
『何泣いてるの? 私は大丈夫だから』
目尻に手をやりなきじゃくるれもんさんを慰めようと肩に手を置いたのだけど……。
『違うの……ありりんは大丈夫だって分かってる……』
『じゃあ、どうして?』
『そんなのなたくんに彼女がいたからだよぉ……』
れもんさんは私を心配してくれてはいたけど、それよりも哪吒くんに彼女がいたことがショックだったらしい。
私も今すぐここで泣き出したいくらい……。
『何だよ、二人とも泣いてんのかよ、ううっ、ダセえから止めろって……』
『そういう筧さんだってそうじゃない……』
『うるせえ……これは目にゴミが入っただけだ』
顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙をこぼす美里さん……。
私も彼女と同じ様に泣いてしまっている。
哪吒くんは初恋の相手であり、失恋した相手でもある……。
それとなくアプローチを掛けていたのにまったく気づいてもらえてない……。
『そういやさ、崩壊後に日向がアリシアの様子を見に来てくれたんだけどさ、病気の妹の見舞いにいかなくちゃならないって。アリシアが目覚めるまで傍に入れなくてごめんって謝ってたよ』
ううっ……。
日向くんはどうして、そんなに優しいの……?
――――【颯真目線】
くそつまんねえ授業が終わって放課後になった。
オレは授業なんて受けなくても十分強えって!
明らかにオレを避けてやがるアリシアが倒れたって聞いて、情けねえ寝顔でも拝んでやろうと思って保健室に行ったら美里とれもんがいて、バリケードになってやがる!
あいつら……用済みになったらオレが本気で分からせやっからな!!!
教室に戻ってくるとゆきが哪吒の席に座って、思い詰めた様子でいる。
『ゆきじゃん! 何してんだよ』
『颯真くん……』
『浮かない顔してんな。オレで良かったら話してみねえ?』
『え? いいんですか?』
ははは! 哪吒! おまえが悪いんだぞ。
オレのカイザーハーレムを邪魔したおまえがな!
おまえの最愛の彼女を今から寝取りまーす!
オレがゆきを落としたとき、どんな気持ちかマジで聞いてやりてえな!!!
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