第7話 寝取った? 別れるつもりだったんだけど?

「れもんはさ、パーティーにいてくれるだけで、みんなが明るくなるムードメーカーなんだ。ちょっとした仕草がなんて言うか癒されるんだ」

「ほんと?」


「ああ、俺がれもんに嘘ついたことがあった?」

「ないないない! なたくんはいつもれもんに正直だよ!」


「だろ。それに配信でもれもんがご飯を食べ始めるとPVが跳ね上がってる。これってれもんがみんなのアイドルってことだ」

「あうーっ」


 れもんは恥ずかしそう顔を両手で覆う。俺と同い年だがロリっぽいれもんが両手を使いおにぎりを食べるだけのショート動画は五百万回という俺たちパーティーの中で最高のPVを叩き出した。


 その収益から購買部で希少なアイテムを購入できたのだから、れもんのパーティーにおける貢献度は非常に高い。


「れもんは自分が思ってるほど無能なんかじゃない。どこのパーティーに行っても頼られる存在なんだ。だから間違っても腕を切り落として、俺に移植しようなんて真似しちゃダメだからな」

「……う、うん。れもん、間違ってた」


 瞼に溜まった涙をカーディガンの萌え袖で拭うれもん。


「ふいーっ、なんか騒がしいと思ったら、れもんが自傷しようとしてたんだから、びびったぜ」


 美里が深い溜め息を吐きながら、ベンチに腰掛け背を反らす。


 ちらちらと壁際からこちらを窺う気配を感じた。俺が見ると、さっと件の人影は角に隠れてしまうが、顔を隠しておしり隠さずじゃないけど、銀糸のような髪が遅れて隠れ、正体はバレバレだ……。


「なたくん……」

「どうした?」


 れもんが小柄な身体を震わせ、俺を上目遣いで見てくる。


 くっ!


 小さなもふもふのような純真な目で見つめられると、何でも許してしまいそうになる。


「れもん、なたくんに甘えていい?」

「え、あ……うん、今だけなら……」


 もしかしたら俺はもう……そう思いれもんのお願いを許可すると、とんと軽くれもんの身体が俺に触れていた。更には大きなクマのぬいぐるみを抱き締めるように俺の背中へれもんの腕が回る。


「はーっ、なたくん暖かい」


 れもんは俺の胸元に顔をうずめ、体温を感じているようだった。


「なっ!?」

「えっ!?」


 それを見た美里がベンチから立ち上がり、アリシアも隠れていた壁際からワープしたんじゃないかってスピードで俺のところに移動していた。


「れもん! 何やってんだ!」

「そうです、ここは人目につく場所で破廉恥ですよ」


 二人はれもんを俺から離そうとするが、れもんは……。


「二人もなたくんに甘えたらいいよ」


 と俺に顔をうずめながら、とんでもないことをしれっと言ってのけてしまう。


 れもんの言葉を真に受けたのか、美里とアリシアが、はっとした表情で互いを見ると俺に接近してくる。


 れもんはともかく、二人がそんな行動を起こすことなんてなかったのに今日は何だってんだ!?


 じりじりと二人ににじり寄られるも、俺はれもんにハグされ後退することを許されない。


「日向……」

「日向くん……」

「いや、二人とも……れもんに注意してたよな?」

「あたしって忘れっぽいから」

「なんのことかしら?」


 両手に花という言葉がある。俺は両腕を失った。だが何故か腕のあった場所に迷宮探索校でも一、二を争う美少女二人が俺をハグしていた……。



 SHRが始まるので、みんなで急いで教室に戻り席に着いた。


 さっきの購買部でのことが頭を過る。


 いったい、どうしたというのだろう? 三人揃って、俺にハグしてくるなんて……。こんなことは初めてだった。


 階層ボスを倒したときでもお互いにハイタッチするくらいだったのに……。


 俺のかなり前に座るゆきを見ると申し訳ない気持ちになったが……いや、それももう……。


 そんなことを思っていると、チャイムと同時に担任の佐藤が教室に入ってきて、教壇に立つと開口一番で俺を非難し始める。


「この名誉ある迷宮探索校に不名誉な者が出た!」


 ジャージ姿にマッチョな体躯。佐藤がデスゲームの始まりを宣言しても、さもありなんと言った感じの風貌をしていた。


「誰か言わなくても分かるなぁ!」


 佐藤は俺を野獣のような目で睨むが、そこで物言いが入った。


「佐藤先生、あんまり哪吒を責めないでやってよ。初めてリーダーをやって舞い上がっちまったんだ」


 舞い上がるどころか、俺は颯真たちがレイドボスの潜む場所へソロパで入ったとこに顔面蒼白になってたんだが……。


「オレは止めたんですよ……。あまりにも無謀だって。なのに哪吒は可能だって言い張って……。その結果が哪吒が両腕を失うなんてことに……」


 はは……、とんだ演技派だ……。


 乾いた笑いしかおきない。


 颯真はご丁寧にも目薬を手のひらに隠し持っており、時折目に差して嘘泣きを演出する。


 颯真のことだ。網代家の権力を使い、責任逃れのために急遽俺にリーダーを押し付けた。今回のダンジョン探索の失敗をすべて俺になすりつけるために……。


「網代……、おまえって奴は! なんて仲間想いのいい奴なんだ! おれはかつてないほど感動しているっ!!!」


 颯真の嘘泣きに感化されたのか佐藤は泣いていた。


 まあ網代家に対する忖度も入ってるんだろうなぁ……。


「くっ、だが日向のことはしっかりと処分せねばならん! 他の生徒か真似せんようにな! では処分内容を伝えるから心して聞け」


 佐藤は俺たち生徒の前で、俺の処分内容を読み上げた。それは以下のようなもの。


 一つ、杜撰な探索計画でパーティーメンバーを危険な目に遭わせたこと。


 二つ、迷惑配信で迷宮探索校の評判を著しく貶めたこと。


 三つ、自業自得の結果両腕を失い、将来性がまったく見込めないこと。


「以上のことより日向哪吒は本日をもって名誉ある迷宮探索校から放校とする!」


 佐藤が俺に言い放つと、ガタンという音が三方向からした。


「佐藤先生! 日向くんは悪くありません!」

「サトセン! そりゃないって!」

「くまちゃん……おかしいよ……」


 アリシア、美里、れもんの三人が佐藤の告げた決定に異議を申し立てたのだ。


「おまえたちは日向に酷い目に遭わされたというのになんて優しいんだ……。だがな、これは職員会議で決まった厳正なる決定だ。覆ることは一切ない」


 強面の佐藤は三人の美少女から上がった抗議に頬こそ緩めたが、俺の放校処分については一切妥協しないらしい。


 まあなぁ……。


 どちらにせよ、両腕のないダンジョン探索者なんて俺も聞いたことがない。


 放校やむなしと覚悟はできていた。


 心残りは颯真のやらかしの責任を押し付けられ、クラスメイト……、いや全校生徒から白い目で見られることくらい。


 クラスから漏れるひそひそ声からは自己責任論に触れられていた。



 佐藤も家庭があるんだろう。他の教師もそうだ。迷宮探索校……、いや東都大学とその付属校で網代家に逆らえば、火を見るより明らかで退職に追い込まれてもおかしくない。


 本来ならSHRで俺は去らないとならなかったが、アリシアたちの抗議の結果最後の授業を受けれることになった。



「哪吒くん……ちょっといい? 話があるの……」


 迷宮探索校での最後の授業を終えると俺の前にゆきが立っていた。そこへ、音もなく颯真がやってくる。


「哪吒、おまえにもう一ついい知らせがある。ほら、ゆき、哪吒に聞かせてやれよ」

「哪吒くん……ごめんなさい。私、他に好きな人ができたの……」


 颯真はゆきの肩を抱き、引き寄せた。


「ああ、そういうことか……。ゆきが気にすることじゃない。俺もゆきにその話をしようかと思ってたところだよ」

「え?」


「だって、そうだろ? こんな両腕のない男と付き合うなんて、介護させられてるようなもんだよ。俺はゆきにそんな真似させられないから。ゆきに別れようって言い出しづらくて……。でもゆきが颯真と付き合うってなら俺は安心した」


「何、強がってんだ! オレにゆきを取られて悔しいんだろ!」

「いや。颯真、ゆきを頼んだ。ゆきは寂しがり屋だから目を離さないでくれ」


 そういえば颯真はアリシアと付き合ってるはずなんだが、ゆきは知らないんだろうか? いや颯真が二股を掛けていようが、両腕を失った俺に何か言う権利などないか。


 俺の中で一番言い出しにくいことを向こうから言ってくれて、正直助かった。俺と一緒にいて、ゆきまで好奇の目で晒されるようなことがなくて、俺は安心した。


 不思議なことに颯真は歯噛みして悔しがり、ゆきは青い顔をしていたが……。


 二人とも相思相愛になれたのに、何でそんな顔するんだろう?

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