『16barsの鼓動』第十一章(改定完全版)
Silent Riotが結成されてから数日後。
町田駅前にある小さなライブハウス「VOX Machida」から出演の誘いが舞い込んだ。
出演者募集に彩葉が勝手に応募していたのだ。
「え、ちょっと待って! そんなの聞いてない!」
ことねは真っ青になった。
「だって、名前決めたばっかだし! これはデビュー戦にぴったりでしょ?」
彩葉は胸を張る。
「……無茶するな」
芽依はため息をつきながらも、すでにターンテーブルを準備していた。
当日。
小さなステージに立つと、観客席には二十人ほど。
大半は別のバンドやラッパーの仲間、あるいは常連客。
Silent Riotのことを知る人は誰もいなかった。
「だ、大丈夫かな……」
ことねは足をすくませた。
「大丈夫! 私たちの曲、やろう!」
彩葉の声に背中を押され、芽依がビートを刻む。
――《Backstage Riot》始動。
ことねの声は震えていたが、必死に言葉を吐き出す。
彩葉が歌で支え、芽依がスクラッチを入れる。
だが、観客は腕を組んで無反応。
他の出演者の仲間たちは軽く笑って、ひそひそと囁き合っていた。
「……全然、届いてない」
ことねの胸が冷えていく。
声が小さくなり、彩葉の歌も外れていく。
芽依の手も止まりかけた。
演奏が終わっても、拍手はまばらだった。
それは「慰め」の拍手にしか聞こえなかった。
ステージ裏。
ことねは壁にもたれかかり、頭を抱えていた。
「やっぱり私たちじゃ無理だよ……」
「ちがう!」
彩葉が即座に声を張り上げる。
「届かなかったんじゃなくて、まだ届く形になってないだけ!」
「……」
「音は絶対裏切らない。私たちが本気でやれば、必ず響く」
芽依の短い言葉が、ことねの胸を打った。
その時、楽屋のドアが勝手に開いた。
「おーい! 青春してるなぁ!」
缶コーヒーを片手に猫丸が現れた。
「おじさん適当に言うけどな、最初は誰も聞いちゃくれねぇよ。粗さが宝石になるんだから、磨き続けりゃ光るんだ」
「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ〜」
みのたが後ろからひょっこり顔を出す。
そしてべすが乱入し、ことねの顔にべろりんちょ。
「……っ、もう!」
涙混じりに笑うことねを見て、彩葉と芽依も肩を並べて笑った。
「次は……絶対に負けない」
三人は拳を合わせた。
Silent Riot。
その鼓動は、まだ始まったばかりだった。
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