『16barsの鼓動』第十章(改定完全版)

放課後の音楽室。

 窓から差し込む夕陽が、机の上にオレンジ色の光を落としていた。

 そこに集まったのは、ことね、彩葉、芽依の三人。

 それぞれの表情には、もう迷いはなかった。


「……よし。やろう」

 芽依がターンテーブルを置き、ことねがノートを広げる。

「次こそ、絶対に負けない」

 彩葉が大きく息を吸い込んだ。


 三人の間に、静かな緊張が走る。


「ねぇ」

 ことねがぽつりと呟いた。

「私たち……ユニットの名前、決めない?」

「名前?」

「だって、ただ“私たち”って呼ぶの、もう違う気がする。昨日、あんなに悔しかったのに……まだ立ち上がった。これからは、一緒に進む仲間だから」


 彩葉は目を丸くして笑った。

「いいね、それ! ことね、何か考えてるんでしょ?」

 芽依も無言でことねを見つめる。


「……Silent Riot」

 ことねは少し照れながら言った。

「“静かな暴動”。表では目立てない私たちだけど、心の中で暴れてる。声にすれば、それが世界に響くと思うから」


 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、彩葉は勢いよく机を叩いた。

「カッコいいじゃん! それ! 私、好き!」

 芽依も口角をわずかに上げ、静かに答えた。

「……悪くない」


 三人の視線が交わる。

 その瞬間、言葉にできない熱が胸の奥で弾けた。


「よし、決まり! 今日から私たちは――」

「Silent Riot!」

 三人の声が重なり、音楽室に響いた。


 ちょうどその時、扉がバンと開いた。

「え、なにこの青春イベント!? うちら呼ばれてないんだけど!」

 橘陽菜と紅葉が乱入してきた。

「うわー“Silent Riot”って! なんか中二感すごーい!」

「でもちょっとカッコいいかも?」

「……放っといて!」

 ことねは顔を真っ赤にしてノートを抱きしめた。


 さらに廊下の窓から顔を突っ込む男の声。

「女子高生ユニット!? 町田の未来だぁぁぁ!」

 北山望が叫び、すぐに教師に引きずられていった。


 笑いと騒ぎの中で、それでも三人は胸を張っていた。


 Silent Riot。

 この名とともに、彼女たちの物語は本格的に走り出した。


 窓の外で、猫丸が缶コーヒーを掲げてつぶやいた。

「粗くてもいい、始まっちまえば音は転がる。……行け、Silent Riot」

「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよー」

 みのたが肩をすくめ、べすは「わん!」と吠えて夕陽にシルエットを浮かべた。

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