『16barsの鼓動』第十二章(改定完全版)
ライブハウスでの初挑戦から数日後。
Silent Riotの三人は音楽室に集まっていた。
しかし、芽依の手はいつもより重く、ビートも不安定だった。
「……芽依、なんか元気ない?」
彩葉が心配そうに声をかける。
「別に」
芽依は短く答えるが、視線を合わせようとしなかった。
その日の帰り道。
ことねと彩葉は芽依の後ろ姿を追った。
彼女は町田駅近くの古びたゲームセンターに入っていった。
中は薄暗く、客もまばら。
奥のスピーカーからは古いヒップホップが流れていた。
芽依は筐体の横に座り込み、イヤホンを耳に差して目を閉じた。
肩が小さく震えていた。
「芽依……?」
ことねが声をかけると、芽依は少しだけ口を開いた。
「……昔、夜が怖かった」
「夜?」
「真っ暗な部屋で、ひとりになると……息が詰まって、生きてるのが嫌になる夜があった」
ことねと彩葉は息をのんだ。
「でも、そのときラジオから流れてきたビートに、救われた。
意味なんてわからなかったけど、音が生きてて……“まだ大丈夫”って思えた」
芽依はイヤホンを外し、二人に差し出した。
「だから私は、音を作る。あの日の私みたいな奴を、生かすために」
イヤホンから流れてきたのは、どこか粗いが熱を帯びたビートだった。
ことねの胸に電流のように響いた。
「……芽依」
彩葉は目を潤ませながら言った。
「そんな音を一緒に作ろう。三人で」
芽依は少しだけ視線を落とし、口元を緩めた。
「……なら、もっと本気でやる」
その夜。
猫丸が公園のベンチで三人を見送っていた。
「粗さに救われたやつは、粗さを宝に変える」
「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ〜」
みのたが笑い、べすがまたしても「べろりんちょ」。
今度は三人まとめて顔を舐められ、全員が大爆笑した。
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