第3話

 動物の国につくと、木に巣を置き、親鳥は店をしていた熊のところに向かう。

 果物を代金に代わりに渡して、しめ縄飾りを買った。

 小鳥たちの元に戻っていた。


  ☆☆☆


「買ってきました」

「ありがとうございます」

「僕が飾ってこようか」

「いえ、わたくしがやりますわ」

 小鳥はしめ縄飾りをもらい、玄関に向かった。

 靴をはいて、雪原が広がる外に出ていき、それをライターで燃やした。

 煙は小鳥の鼻の中に入り、焦げて嗅いだ。

 小鳥は身を投げ出すように、近づいた。

 この世界にいたくなかった。生きるのが辛かった。

 母や父に才能がないと笑われて、捨てられてしまった。

 それだけなら、まだ許せたかもしれない。

 ほめてくれて、優しくしてくれた烏丸を病気で失った。

 そのことが耐えられない大きな傷になり、受け入れなかった。

 烏丸の幻体を作った。魔力が溢れている屋敷の中なら、保っていられた。

 鳥のために力を使いすぎて、保つことできず、烏丸の体を透けてしまった。

 明日には、烏丸は小鳥の前からいなくなっているだろう。

 それが耐えられなかった。

 だから、ここで死んでしまいたかった。神様なら、この願いをきいて、烏丸のもとに連れていってくれる。


「だめです」

 親鳥は炎の中に入り、羽が焼けることをためらわず、小鳥を足で掴んだ。

 高く高く、羽ばたいた。


「どうして! わたくしを助けたのですか」

 小鳥は親鳥に向かって、叫んだ。

「子供を助けて……くれま……。お礼……したかった……」

 親鳥が瞳を動かし、小鳥を見つめる。

「いきてほしか……」

 静かに目をつぶった。

 小鳥は涙をこぼしながら、魔法を使いました。

 もう使えなくなってもいいから。もう烏丸に会えなくなっていいから。

 これから生まれてくる、子供ために親鳥には、生きてもらわないと。

 ぴくりと親鳥は動きだし、息をふき還した。

「またあなたに助けられました。ありがとうございます」

「わたくしがばかでした。助けてくれて、ありがとうございます」

「あなたはばかではありません。お兄さまが会えなくなるのに、わたしの命を守ってくれました」

「知っていましたの」

「はい、外からずっと見ていました」

 雪が降る前に動物の国にいけなかったのは、小鳥のことを見守っていたからだと思った。

 小鳥を子供のように思っていたかもしれない。

「命を助けてもらったお礼に、この羽をもらってください」

 くちばしにつついて、羽を取った。

 青色のきれいな羽を、小鳥の手のひらに置いた。

「これを嗅ぎながら、寝ますと幸せな夢を見せて……」

 親鳥は小鳥が悲しんでいることをしってしまった。これ以上、言えなかった。

「夢の中で、お兄さまにもう一度会えると思ったら、嬉しくて……」

「そうですか。幸せな夢を楽しんでください」

 親鳥は礼をして、天空てんくうに飛んでいく。

 小鳥がそれをしっかり見届けた。

 鳥の籠だった屋敷から見るよりも、どこまで広く、遠く感じられた。


「さよならです」

 親鳥に見えるように大きく手を振った。


  その日の夜、小鳥はベッドの中で、大事そうに青色の羽を抱きしめた。

 鳥の匂いを嗅ぎながら、眠りついた。


「小鳥」

 烏丸に、小鳥の頭に手を置き、優しく包むように。温めてくれるように、撫でてくれた。

 小鳥は気持ちよさそうな顔をして、受け止めた。

 この終わらない世界を、いつまでも見つめていたいと思った。

 幸せの夢を包まれていたいと感じた。

 それは、季節が移り変わりするように、止められない。

 儚く散ってしまうのだ。

 だから今だけは、この世界で眠らせて……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る