哀れの徒ー解説

 この詩は、人をすぐ嫌いになってしまう自分への強い嫌悪と、その悲壮感を古風な言葉遣いで表現してみました。冒頭では「小さききず」として、人のほんの些細な欠点を見つけるだけで心が冷え、相手ごと遠ざけてしまう弱さが語られています。ここで用いられる「瑕」は、器物の表面の欠けや薄い曇りのように、取るに足らぬはずの小さな欠点を意味しています。


その一方で次の連では「人とは皆、きずを負ひ」と記しています。「疵」は肉体や心の深い傷を指し、人間が本質的に抱えている欠陥や痛みを示しました。つまり「瑕」は表面的で些細な欠点、「疵」は人間存在の根にある避けられぬ傷を表しており、この二つを対比させることで、苗木が「些細な瑕ばかりに囚われてしまう自分」と「本来は誰もが抱える疵を赦せぬ自分」の葛藤を際立たせました。


 詩全体は、他人を憎むことで結局は自分を刺してしまう自己嫌悪の連鎖を描きました。赦したいと思っても叶わず、日々は腐り、未来はすすけ、孤独が雪のように降り積もっていく……そして最後には「哀れなる愚者」と自らを断じ、「人を愛せず、人を憎み、己すら赦せぬまま、それでも死にきれず生を続ける」という悲壮な姿を突きつけて終わらせています。


 この詩は、理屈では「友とは欠点を赦し合うもの」と理解していながら、感情がそれを許さない人間の弱さを、苗木の愚かさを叫びました。


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