哀れの徒

嗚呼、我はすぐさま人をいと

小さききずを見つけては

胸のうちに氷を抱き

その人ごと遠ざけてしまう


本来、知っておるのだ

人とは皆、きずを負ひ

それを抱きて歩むものなるを

赦し合ふこそ、友の証しなるを

されど、我が心は頑なに凍り

刃のごとき眼差しを隠し得ぬ


嗚呼、憎むは他者にあらず

我が胸に潜む、暗き影なり

人の瑕をわらふたび

その嘲りは己へと返り

わが肉を穿うがち、血をすす


赦したき思ひ、確かにある

されど、それ叶はず

日々は腐れ

明日はすす

孤独は雪のやうに降り積もる


――我は哀れなる愚者

人を愛せず、人を憎み

己すらも赦せぬまま

なおも生を手放せぬ哀しき者なり


────────────

語句の意味↓

○瑕、疵…不完全なところ。欠点。

○裡…奥底の感情。

○嗤ふ…嘲り笑う。冷笑する。

○穿つ…人の機微や物事の本質を鋭く見抜くこと。

○煤け…火や煙によって物が黒くなったり色あせたりする状態。

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