2刻

「ってことがあってな。」

東都の学園、部室にて。

男二人机を挟んで椅子に座っている。

呼ばれた方の男は呼ばれて仕事かと思えばただの経過を聞かされただけであり不服そうな顔をして目を合わせない。

その場に立ち会っていなかった一人に事の顛末を伝えていた。

「で?」

てことだ。という言葉が聞こえ話の終わりになったところでその次の話を聞こうとする。

別段先ほどまでの話で深く聞く気になる内容が無かったとも言える。

「まだその段階だ。正直拾ってきたもののどうすればいいか。」

「・・・は?考えてないのかよ。」

机を対面に座る互いに顔を合わせる。

気にしていなさそうな顔・・・まあいつもそんな行動をしている奴ではあるが今回に限りそんな顔でいられる内容ではないだろというツッコミである。

「彼女をどうにかするのはいいんだが、言った通りその影がどう関係しているのかが上手く取れなくてどう対応したらいいか分かっていない。」

「偵察とかできないのか?」

「異世界だからね。」

同じことを言おうとした男を遮りテレポート魔法もなしに空間に現れる。これも彼女が持つ悪魔の能力だ。

「「いつの間に」」

「この前いた場所の確認してきたから。」

レルの隣側に現れ、頬を指先で突いたと思えばくるりと翻り部屋の隅にある黒板を転がして戻ってくる。

そこにこの前の路地裏付近の地図を書き込み始める。

「この前あの子と会ったのがここ。それで他の奴が見えてたのはこことかとか。」

10人越えの影が動いていたルートを書き込む。

ルートをたどった先が途絶える。そして書いたルートと逆に印を描き、行動を巻き戻して書いていたことが判る。その場合地図の途中から行動し始めたことになるが。

「当たり前だけどその辺から歩いてきてるわけでもないし、魔法の線もないわ。あたい達の戦闘痕以外魔法の使用が見られなかったから。とすれば何らかの影響で時空が歪んだかと思ったのだけど。」

奴らがこの世界に来た方法の話だ。

こんこんとチョークで途切れた線を小突く。

「その場所が分からないのか。」

「あいつらの足を辿ってったけど、一か所からじゃないのよ。で、何の痕跡もないし。」

「ずっといるわけでもないのか。」

「あたいが早朝見た感じ居なかった。あの後結構早く消えたみたいね。原因不明で出てくるしあの子を探索するために他のところに出てくる可能性は十分にあるけど。」

「聞き込みはしたのか?」

情報を言わないとすれば結果は分かっているが確認のため先輩が口を出す。

「勿論。その時間付近の足跡から確認してみたわよ。それでも目撃者無しじゃあどうしようもね。」

被害者が居ないのはいいことだけど。と付け足す。

「知らない世界に飛ぶ方法か・・・」

目の前に同じことやるやつはいるが本人曰く「あたいがハーフだからたまたま出来るだけ。」と自分を例外扱いしている。

「マナで繋がってないとあたい達の魔法は届かないし。」

「向こうはどう飛んできてるかわからんのだろ。」

うーんと全員が声を捻る。

「やりたくないけど全探索する?」

「あるのかよ。」

「まぁ、出来るか分からないから。」

確かに。シーファがテレポート魔法の飛び先を見つけるのも触れているものの情報が分かる能力を強化させて広範囲から情報を取ることで魔法の唱え元を探しているに過ぎない。

とすれば探索範囲を広げて影が現れたときに消えた影が居る場所を見つければいいのだ。

・・・それが見つかる範囲であれば。

「お前が分からないって言うのは珍しいな。」

「ってわけで、今日も行っていい?」

用がなくても何も言わずに来る奴が言う台詞か。睨みつける。

それに対し「てへぺろ」と言わんばかりに舌を伸ばされる。

「それだけかよ。」

いちゃつきに嫌気が差して口を出す。

「「明日俺(レル)の家な(ね)。」」

「へっ。用事あんじゃねぇか。じゃあ帰るぜ。」

無ければぶん殴っていたと言わんばかりにどかりと椅子、そして扉の音を立てて先輩は出ていった。



あの後男と少女が軽く打ち合わせをしたのちに昼過ぎに二人並んで戻ってくる。

「ただいまー。」

「おかえりー。」

「・・・お前一緒に帰ってきてんだろ。」

「まったく~、あなたのママも居ないのにだれがお帰りを言うってのよ。」

それにしても一緒に来た奴が言うのは違うだろう。

「「お帰りなさいませ。」」

シスタとガリスが玄関で二人の帰りを待っていた。

「居たわ。」

当たり前である。男の作った手伝いロボなのだから。

「そりゃ居るだろ。シスタ、彼女は今どこに?」

この前連れてきた影の娘は女の子であるためアンドロイドとはいえ女型のシスタに監視を頼んでいた。

「奥の書庫に居ます。私が見ていた時には歴史の教科書を読んで居ました。」

「そうか。シーファ、行くぞ。」

「あたい準備してから行くから。」

そういって靴を脱いで少女は客室の方へとそそくさと進んで行った。

「準備するようなことあるか?・・・まぁいいか。」

奥に暫く進む。リビング、物置、研究室(その1,2)と進み、

「おーい、居るかー?」

書斎の隣にある書庫の両開き扉にノックをしてそのまま入る。

「・・・あ、レヴァレル。」

・・・

「シスタ、ガリス?」

目の前の状態に対し監視してた人(と付いてきたもう一人)に異常が無いか確認する。

「はい?」「なんでしょう?」

手で頭を押さえる。

「なんで服着てないんだ?」

「・・・着替えているところ・・・なんだけど。」

「あー、そうか・・・」

横に居るアンドロイドに尋ねる。

「癖でそのまま入った俺が悪いのか?」

「まあ悪いでしょうね。」

いつの間にかシーファが後ろに居て答える。

「シーファ様の時でも開けてるのが悪いのですよ。」

おいガリス。

「なんだよもっと驚くと思ったんだがな。」

三眼の悪魔まで。というかわざとか。

「お、お前ら・・・」

「・・・着替えるから、ちょっとまって。」

「お、おう。しかしもう喋れるようになったのか。」

昨晩は三眼の悪魔が喋っていて彼女自身からの話が聞けていなかった。

それだけでなく彼女の、小さくも儚い声から本当に動けるようになっていることに実感を持てる。

「まぁな。直接俺に聞いてから処理してるからちょっと喋りが遅れるが。」

一つ目が答えた。

「それもしばらくの間だろ?彼女が言葉を理解できるなら呑気に待つさ。」

「・・・あの、そのままですか?」

もう一度彼女が注意を向けてくる。

「・・・出るか。」

「「そうしてください。」」

アンドロイド二人に注意される。ガリスお前は男型だからこっち側じゃないのかと男が引っ張りながら開けっ放しの扉の外に出る。

「それでは私も。」

「あたいは残るよ。服も選んじゃお~。」

最後にシスタが扉の外に出てゆっくりと扉を閉める。

「へっへっへ~レルの趣味はあたいが把握してるからね~。」

この女は触った人の情報が分かるのである。

つまりレルの趣味も理解しているわけで、少女が言うにそれに合わせて(露出の高い)衣装を着ているのである。

「ほうほう、上等なものをお持ちで・・・」

外に出た瞬間遠慮のない少女の声が聞こえてくると男はローブの内側にある無数のポケットの一つから魔力石を取り出し、少し扉を開けるとそのままシーファに投擲する。

「何してんだ!」

見事に側頭部高めに命中する。首の方向が綺麗に傾いた。

「ぎゃふん!」

「服着るのに採寸は大切よ!?あと形!」

「声に出す必要ないだろ!」

「・・・あの」

顔だけ覗く男に彼女が戸惑いの声を出す。

「俺が悪いんか!」

そうやって再度扉を閉めた。

「さあてどうしようかしら。」

彼女自身より一回り小さい身体、白い肌に黒く纏まらない髪、黄色い角が二本生えていれば背中から生えた物理学から見たら飛べない形状の羽。

そしてなにより大きい胸と小ぶりなお尻が、

「ん~、ここからレルの好みに合わせるには。」

まずはサイズの合った下着を魔法で召喚する。

趣味と実用を兼ね、様々な衣装が彼女の魔法で呼び出せる空間に滞在している。

魔法の空間は中身を見れないが入れた物と場所さえ覚えて置けば彼女のように万を超える衣装から欲しい物を取り出すことが出来るのだ。

少女の後ろに回って取り出した下着を穿かせていく。

「んー、寒くなってるしこういうセーターの服とか。」

そういって次のものを召喚する。

「おいまて、寒くなってるっていう割に袖がないぞ。」

三眼の悪魔が即座にツッコむ。温かそうに見えて袖だけが無い紫色のセーターだ。

「え、だってこの娘自身は痛覚ないから実用性より見た目重視じゃない?」

「俺が多少の寒暖に強いからってなぁ。」

多分この悪魔が触れたときに知られた情報なのであろう。

「じゃあお前も見た目重視なのは、」

「えぇ、戦場に居れば邪魔だからね。」

「自分でか。」

袖、ではなく痛覚の話だ。

「ずっとやってたらね。」

そのままスカートを取り出し履かせていく。

肌の外に露出した三眼の眼の蔦に触れる。これは少女の神経でもある。

「にしても三眼の眼邪魔ね。ベルトで絞めると苦しくなるでしょ。」

「・・・うん、セーターの時点でこそばゆい。」

先ほどから身体を縦に伸ばしたり身体を震わしたりしていることから袖口が締まっているような衣装を避けて袖なしのセーターにしていたのであろう・・・そう思っておこう。

「そこらへんは我慢してね。スカートは穴を通して潰さないようにしておくから。」

一度脱がすと裁縫道具を召喚し、その場で裁断、縫い付けをする。

「・・・シーファ。」

「ん?あたい?」

突然呼ばれて聞き直す。

「お前たちの名前は契約した俺が知ってるからな。」

「あぁそっか。で、なに?」

「・・・私はなんでここに居るの?」

「それはどこから話せばいい?」

正直、彼女のことはシーファからしてもあまり分かっていない。

「・・・・・・私がどこに居てなぜここに来たのか。」

それは彼女にとっても知りたい事だ。

「どこに居てってのはあたいも解らないわ。有り得る線は影みたいなやつらと同じところに居た。それが何かの影響でこっちにあなたがやってきて、それをレルがたまたま拾った。」

「あなたはその影みたいなやつらに捜索されてる。あたいたちにはその理由もわからない。」

「保護してるのはレルの趣味ね。もっとも」「彼はあなたのことを好きになって保護してるってところもあるけど。」

事の顛末を端的に説明する。

「は?」三眼の悪魔が声を出す。

「彼の癖でね。かわいい子は保護してるのよ。あなたに限ってはそれだけじゃないでしょうけど。」

「お前はそれでいいのか。」

少し見た限りあの息の合い方。魔法使い(レル)の名だけあり多妻制が許されているのが本妻なりの余裕なのか。

「別に。付き合ってないから。」

「お?おぉ、そうか。」

あっさり放たれるその言葉に困惑する。

「で、今はあなたがなぜ来たかを向こうに聞こうとしているところ。先ずは向こうに行かないとだけどね。その後、」

「きっとレルならそこの主をぶん殴るわ。」

空にパンチを決める。

「あいつ、偉い人じゃないのか・・・?そんな短気な。」

ケラっと笑い返される。

「そうよ。絶対的強者であることを見せるため相手よりも強いことを叩き込んでこっちの要求を呑ませる。すぐにあなたの所在についてこっちに寄越すようなんてあなたの居たところに行って言うと思うわ。」

「そんなんでいいのか。」

それは明らかに幼稚だ。大人に並んでまでトップがやることなのだろうか、と。

「それだからあたい達は救われてるのよ。」

はい。とって少女のために仕立て直したスカートを履かせていく。

「さ、その後の話はあたいよりそのレルに聞いた方がいいわ。終わったわよ~。」

がちゃりと片戸が開かれ、一度男が顔を覗くと中に入ってくる。

着飾った少女は紫色のセーターとひらひらが付いたスカートを付けていた。

それを足先から頭頂部まで顔を近づけながら見つめてくる。

「ふむ。寒くないか?」

「・・・別に。・・・服自体に違和感はある。」

「こそばゆいか。」

そのまま少女の細身の腕に触れる。勿論死人のように冷たい。

「・・・ねぇレル、・・これからどうするの?」

「聞いてきたか?」

シーファに尋ねると頷き返される。

「お前についてくる追手を突き返す。それからお前が何者なのかも気になるからな。」

「なによりお前の状態が正か確認しなくちゃならない。」

その状態とは身体の内側に魂が幽閉されている状態のことだ。

「よし、それじゃあブラン。」

少女に声をかけるように顔を近づける。

「お前の名前だ。レル・ブラン。」

「おい待て、レルだと?」

三眼の悪魔が反応する。

「何か悪いか?苗字すらないのも変だろ。」

「そうじゃねぇだろ。」

「・・・いいよ。」

「・・・だって私を助けた。・・・それに何もわからないから。」

「身寄りがない以上か。身分は登録してるのか?」

この世界には命名時に契約書を書くことで世界に存在と名前を結び付けさせることが出来る。・・・これも悪魔の力だが魔法使いであっても改名や新生児の登録をこれにより行っているのである。

「いや、弾かれた。流石に元の名前があるらしい。」

「やっぱり向こうの奴にか?」

多分な。という。改名には登録者が契約を変更するか破棄する必要があるのだ。

本来の名前も普通は悪魔から直接聞くことが出来るのだが彼女はその契約が不明になっている。

「本当の名前を聞くにせよ改めるにせよ聞きに行かないとな。」

「・・・ブラン。」

自分の名前を復唱する。

「さ、俺は飯の支度でもするか。」

偉い人であるが自分で料理する。思考を纏める時間としたちょっとした趣味である。

「その前にやることがあるわよ?」

少女が立ち去ろうとする男を止める。

「は?」

少女は魔法でガラス製の金床を召喚する。

それを見ると男は睨むように少女を見た。

「本気か?」

「自衛用の武器ぐらい持ってもらわないとね。」

「流石にブランにあの影のところに行くなら守れる自信ないわよ?」

「。」

正論である。初戦で魔法も少女の剣も効いていない時点で相手を撃退出来るかと言われれば不明である。

「・・・?なにこれ。」

彼女がガラスの台を見つめる。

「ね。今から付け焼きの剣術教えてどうにかなるわけじゃないけどこの心鏡の鍛冶台なら扱いやすさの点だけでもカバーしてくれるから。」

「仕方ないか。」

男が頷く。許可を貰い少女が彼女に動かし方を伝える。

「それじゃブラン、この鍛冶台に触れてもらえるかしら。」

「・・・だから、これなに?」

「お前の身を護る武器を作るんだ。・・・すまんな。」

「・・・、・・・謝らなくても。」

何をするか分からないが用意してくれるならそれでいいじゃないか。

「そうよー。過保護なんだから。どうせこの世界なら多少なりとも戦う術がないといけないのに。」

「そこに限度とか順番があるってことだ。」

ほら。と男が彼女の肩に手を置く。

それに対し彼女がうんと返事をすると恐る恐るガラスに触れる。すると周囲の風景が一瞬にして変わり、全面鏡張りの世界にたどり着く。

そこは彼女(三眼の悪魔を含め)と少女以外何もなく、互いが裸体の状態で対面していた。

「これは心鏡の鍛冶台。その人を映し出した逸品を作り出すことが出来る悪魔の一つよ。」

「俺の親戚だな。」

三眼の悪魔が口を挟む。人型じゃない悪魔という点においてだ。これは喋らないが。

「そ。で、あなた自身には思い出せないかもしれないけど魂が露出しているならばその前の記憶から武器が出る・・・かもしれないからね。」

現に三眼の悪魔が彼女の魂に触れているのならこの悪魔も触れることが出来る筈である。

「さぁ、想像してご覧。あなたが手に持つ獲物を。」

想像してと言われても彼女は武器を知らない。

一先ず両手を前に伸ばし手を広げる。

すると手の先が光り、次第に大きくなる。

気が付けば手元には剣が1対現れていた。

左手には片刃の片手剣、右手には両刃の長剣が。それぞれ黒と白の色に分かれている。

「・・・これが私の。」

反射の無い光沢を腕いっぱいに振り回す。

「どう?」

「・・・わかんない。」

使ったことないし。なにより正しい扱いも知らない。

「でしょうね。この後少し教えるから大丈夫よ。でもその前にどういうものか知りたいから渡してくれる?」

「・・・うん。」


「お疲れ。」

今の出来事は時間が動くこともない一瞬のこととして元の世界に戻ってくる。その間に現れた対になっている剣は手元に持ったままだ。

「触らせて~。」

ワンテンポ遅れてはいと両腕を前に突き出し剣先をだらりと舌に向ける。

シーファがその剣に触れる。

「ふぅ~ん。」

「どんな武器だ?」

「陰陽双剣・・・刻拍刀(コクハクトウ)って名づけようかしら。」

「はぁ。お前の武器と被るから名前つけたのか。」

確か少女のこの金床を使った武器も双剣だった筈である。あれが双剣なのかはとても怪しいが。

「見た目全然違うけどねぇ。あたいの武器も名前つけようかしら。」

「俺はそのままでいいぞ。」

「・・・レヴァレルも持ってるの?」

「そりゃな。」

「俺は弓だ。」

そう言って弓を召喚する。男の身長と同じ大弓でその意匠は同じく黒と白で分かれたデザインとなっている。

「ブランのやつはなんか特殊な使い方とかあるのか?」

「いや。視た感じないわよ。」

「銃にもなるとかじゃないのか。」

「案外あたい達の武器が特殊なのかも。使うの3回目だし。」

「じゃあ名前の由来は?」

そう、確かに意味のある命名になっている筈だ。たとえ少女でもそれを読み解いたからそうしたわけで。

「時計ね。」

確かに長針と短針かもしれないが、

「時計。でも能力無いんだろ。」

「そうよ。・・・異世界から来た娘だし悪魔みたいな能力があるとか、なにか大切なものなのか。そこらへんだったり?」

わかるか?と男が彼女に聞いたが首を傾げられた。そりゃそうかと肩をすくめる。

「さ、じゃああたいはブランに剣の振り方を少しでも教えようかね。」

「じゃ俺は飯作ってくるか。」

さ、行きましょとシーファが彼女の両肩を押そうとするが特に反応なく剣を見つめている。

「・・・」

「よし、行くか。お、どうしたブラン。」

「・・・どうやって仕舞うの?」

こっちが魔法で亜空間に仕舞っているのを見て彼女は尋ねる。CTや解剖時に見たがマナを溜める臓器や体に流す器官がない。それに異世界出身なら同じ魔法を使えないだろう。

「あー。あとで鞘を用意してやれ。」

「え~。」

えーとはなんだ。と睨む。少女が用意した武器であろうに。

「へーい。」

そういうとその場でちょうどいいサイズの鞘を召喚する。彼女の店用の物だろう。

それとベルトを召喚して通すと彼女の腰に締める。

「ぐぇぇぇ」

「あ、三眼の悪魔ごと締めちゃった。」

「なにやってんだ馬鹿野郎。」

シーファの頭を素手ですっぱ叩く音が響く。


その後

ご飯を一緒に食べたり、

「そういえばブラン、昼何食べてたんだ?」

「・・・?ケーキ。・・・美味しかった。」

「飯・・・」

食べた後ブランはシーファに連れられ風呂に入り、

「あんたがどこに居たか知らないけど言うほど汚れてないのね。」

「・・・そう?」

「見つけたときゴミ置き場に居たんだけどねぇ。」

「・・・臭かった?」

「そんなに。」

出てくるころには奇麗になった彼女とドヤ顔の少女が出て来たり、

「髪はぼさぼさのままか。」

「くせ毛ね。可愛いからいいでしょ。」

「そうだな。」

そう言っているとシーファが自分の髪をくしゃくしゃにする。

「・・・じゃん!」

「お前が髪を変えても何も言わんぞ。」

「ちぇー。」

ちょっと魔法を教えてみたり。

「驚かないのね。」

「・・・?」

「そもそも魔法を知らな過ぎてそういうものだと思ってるな。」

「あー。」

まぁ、彼女は魔法を使えないから俺らが何してるかの説明になったが。

時計の針はいつの間にかてっぺんを指していた。

男は明日に向けて睡眠を取ろうとブランに与えた部屋へ見送りをしていた。

「じゃあお休みブラン。」

「・・・」

ぐいとレルの服の袖を引っ張る。彼女の表情は動かないが見下げる目が三眼の悪魔に合う。

「どした。」

「・・・いっしょに、寝る。」

「そうか。」

「・・・寝るの、怖いから。」

「そうか。怖かったか。」

きっと昨日寝たときに恐怖を覚えたのだろう。

「・・・うん。ずっとそこに居たから。」

「何もない世界か?」

「・・・うん。分かるの?」

「お前を連れ出す前に夢を見た。」

色はなく形はなく、匂いも音も感覚すらなかったその世界を。寝ている間意識が無いのは普通だがそこに落ちる刹那が似ているからだろう。

「そう。・・・怖かった。」

「そうだな。だからお前を探した。」

「・・・どうやって探したの?」

「たまたまだ。予知夢とかオカルトには興味ないが、本当に起こるなら面白いだろ。それで実際に居たから驚きってもんだ。」

なによりと言ってその次の話に繋げる。

「あれを見たとき、こんな不条理な恐怖がお前を襲って良いと思えなかった。」

「・・・ありがとう。」

袖を握る力が強くなる。

「あぁ。」

男は自室の扉を開ける。

「俺は明日の準備があるからもう少し寝るのが遅くなる。ちょっとまっててくれるか?」

「・・・いいよ。待ってるから。」

椅子に座るレルを見て少女はベッドに腰を下ろす。

男は魔法の空間から取り出しては仕舞い返す点検行為を何度も繰り返す。

「・・・何するつもりなの?」

「お前が来た場所に行く。平和に済めばいいがそうなる気がしないからな。」

「・・・もし私と同じような人が居たら・・・?」

「救う。」

男にとってそれは当たり前である。悪魔も、亜人も、不当な扱いを受けていい筈がない。そうやって戦い、今がある。それは彼女が居る世界に対しても同じである。繋がったのであれば男には救う選択肢しかない。

「・・・そう。」

見えていないが少し笑った気がした。

「当たり前だ。と言ってもお前のように無理やりこっちの世界に繋げるのは効率が悪いからな。ちゃんと魂をこっちと繋げられるようにも考えないとだけどな。」

「・・・頼むね。」

「その時はお前もちゃんと戻してやる。」

うんと彼女が頷く。

暫くその姿を眺めているとよしと言う声とともに男が振り返る。

「さ、寝るか。」

その日の夜に無は無かった。触れあった彼から感じる温もりが確かにここに居ることを証明した。

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