2日目
彼から別れたいとメッセージがきた。
「みーちゃんのために」って
こんな時でもあだ名で呼ぶのか、君は。そんなに自分を悪者にしたくないのか。
でももしかしたら君は、本当に全てを見透かしていたのかもしれない。私が君に興味を持てないこと。妥協で付き合ってること。少しの不快を感じていること。
だとしたら、あれは本当に「私のため」だったのだろうか。君の優しさだったのだろうか。
残念なことに、メッセージを見た時、悲しさも後悔も浮かばなかった。
学校が台風で休みになったような、そんな開放感だけ。数日経ったら寂しくなると思っていたが、そんなことはなく、そしてそんな自分に絶望した。
思い出すのは付き合ってた時の君じゃなく、中学の時、廊下ですれ違った君だ。あの時の香りだ。カーテンだ。斜陽だ。
もう高校も終わるのに、思い出にずっと執着している。
ビー玉を覗き込む。世界が逆さに見える。過去に戻れるような気がする。
ふと、廊下で、君と目が合ったあの瞬間を思い出す。 私は嬉しくて、でも照れて、ほんの少しだけ会釈をした。
君は眉を少しあげて、その後少し笑った。
あの時の光の角度まで、今でも覚えている。 窓から差す斜陽が、君の横顔を透かしていた。 あの瞬間の私の心臓の音は、今もどこかで鳴り続けている気がする。
指先で転がすビー玉の中で、光がゆっくりと溶けていく。 その小さな世界が、静かに現実に押し返されるように。
気づけば部屋の中は少し暗くなっていた。 カーテンの隙間から、斜陽がさしている。 その光の端に、裏返したスマホがあった。
「ブーッ」あのなんとも言えない、緊張感のある音が鳴る。誰からのものだとしても少し心拍数を上げてしまうのはなぜだろう。 スマホに手を伸ばそうとして、やめた。
ビー玉をもう一度手に取る。 掌の中にひんやりとした感触が残って、心拍数が落ち着いたことに気づく。
外から風が吹き込んで、カーテンが揺れた。 風の中に、あの時の匂いがした。
やっぱり泣きたくなる。
明日はまた学校だ。 朝の満員電車、人混み、重すぎるリュック、単語帳。
電車に貼られている広告のキャッチコピーを見て、新しい小説を読んで、「いいな、こういう言葉」と思って、1人で小さく感動するんだろう。
ものを書く人になりたかった。今からじゃ遅いと分かっている。そして遅くなかったとしても、なれないことも。
それでも私は、今日も生きている。 誰かの作った街で、君の、君たちの、いない世界で。
大好きだった君たちへ 久瀬珊瑚 @Sango-
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