第7話 格上
――街の門前
騎馬4頭立ての戦車より、黒鎧の巨漢が降り立つ。
全身を覆う漆黒の鎧、構えた斧は人間の背丈ほどもある。
「ひっ……なんだあの化け物は」
「次男派閥の豪傑か?」
ざわめく声を背に、俺は一歩前に出た。
剣を構え、にやりと笑う。
「ずいぶん派手な登場じゃねえか!街を壊す気なら、容赦しないぜ」
豪傑は低く笑った。
「小僧よ、死に急ぐか」
次の瞬間、斧が振り下ろされた。地面が砕け、石片が飛び散る。
「ははっ喧嘩っ早いな!気が合いそうだ」
俺は紙一重で横に跳び、剣を振り抜いた。
だが、刃は黒鎧に弾かれ、火花を散らすだけだった。
「おおっ硬ぇなぁっ!」
「正面からでは通じぬぞ」 豪傑が
俺は一歩下がり、深呼吸した。
(こりゃ、まともにやったら勝てねぇな。まあ、正面切って勝つ必要もない。生き残ってから、倒せばいい。)
「リオさん!」
エリシアの声が響く。その瞳は不安に揺れている。
カレンは剣を構え、リオの背中を睨むように見ている。
「……無茶はするな。だが、あなたならやれる」
その言葉に、俺は笑った。
「あんたみたいな美女に期待されたら無茶するしかないけどなっ!」
豪傑が再び斧を振り上げる。
俺は正面から受けず、地を蹴って横へ回り込む。
斧が振り下ろされるたびに地面が砕け、砂煙が舞う。
視界が悪くなった隙を突き、鎧の隙間に、そっと刃を滑り込ませる。
「ぐっ……!」
豪傑が呻き、わずかに体勢を崩す。
だが、すぐさま立て直し、斧を横薙ぎに振るった。
俺が咄嗟に身を
髪が数本、宙に舞った……(はげたらどうすんだ!)
「焦ったぜ。いろんな意味で危なかった……!」
一騎打ちを見守る敵味方の双方が息を呑む。
深呼吸……俺の心は急速に凪いでいく。
恐怖は頭の片隅に追いやった。
さっきは少し焦ったが、それももう落ち着いた。
ここからは、ただ勝つために最善の道を探すだけ!
「……くどいぞ、小僧……鬱陶しい」
戦斧を振り回す豪傑が苛立ちを滲ませる、
その動きに、わずかな乱れが生じた。
――今だ。
俺は地を蹴り、豪傑の懐に飛び込む。
斧が振り下ろされる瞬間、わざと足を滑らせるように転がり込み、刃を避けた。
そして、鎧の継ぎ目――首元の隙間に剣を突き立てる。
「ぐああああっ!」
豪傑が絶叫し、斧を落とした。
俺は、ゆっくりと剣を押し込み喉を貫く。
血が噴き出し、黒鎧の巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。
静寂。
冒険者たちが息を呑み、次いで喜びが爆発した。
「やったぞ!」
「魔力ゼロだなんて嘘だろ!」
「街を救った英雄だ!」
俺は剣を振り、血を払った。
(……あんた俺より強かったぜ。重すぎる鎧のせいで動きが緩慢になってこなければな)
「それにしても、あなたは本当に無茶をする……結果を出すのだから何も言えませんが……」
「ははっ、褒め言葉として受け取っとくよ」
そう言ってカレンにウインクしてやった……(デレろ!)
ん?……倒れた豪傑の鎧から、白がのぞく。
血に濡れたその白封を拾うと、公爵家の紋章と「ご次男様」の名が刻まれていた。
「兄さま……本当に……?」
「まあ、答えは王都にあるってこったな」
その瞬間、再び角笛が鳴った。
大地を震わすその響きは、本隊の到来を告げていた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます