まけんの窓口 ~こちら異星迷宮処理機関魔剣課です。事件ですか?魔剣ですか?~
紙風船
第1話 魔剣を助けるだけの簡単なお仕事
「おいおい、弱いんじゃねぇのかぁ!?」
「うるさいよ、気が散る」
「んだテメェ、張っ倒すぞ!」
手にした大型の魔剣……ベルが脅してくる。
どんなに叫んでも剣は剣、どうすることもできないのに。
そんな言い合いをしているところへ、鉄の鞭が襲いかかってくる。
いつもは軽く躱すが、嫌がらせにベルで弾いてやる。
「いってぇ! ……くねぇよ! 鍛えてるからな!」
「面倒臭がりの癖にストイックだよな」
「面倒臭いって言うのは怠け者の言葉だ! 真の【怠惰】は強さの上にあンだよ!」
いつもの口癖を聞き流し、正面に立つモンスター……いや、
鉄鞭の魔剣と名付けられた魔剣は肩で息をしながら僕達を睨み付ける。
「ベル、まだ?」
「ぁあ? あー、もうイイんじゃねぇかな」
「何それ、適当やめてね」
「うるせぇな。さっさとやれ」
ふぅ、と癖になってしまった溜息を吐き、ベルをダンジョンの床に突き立てる。
空いた両手で印を組み、窓のように開いた隙間に鉄鞭の魔剣を捉えた。
そして心から祈るのだ。
この魔剣を助けたいと。
流れ星に祈るように、願えばそれは叶う。
「『封剣術・
術式が発動し、魔剣の足元に術陣が発生する。
そこから光の鎖が飛び出して魔剣を拘束した。
「ガッ、ゥアアアアア!!」
「ごめんね、すぐに楽になるから」
「ハッ……」
僕の言葉をベルが嘲笑う。
なんだっていいさ。
僕は何と思われても魔剣を助けたいのだから。
術式は無事に工程を終了し、モンスターの姿をしていた魔剣は、見事に剣の形へと封印されていた。
「
『《ゴート》の業務終了を確認。帰還を許可する』
「ふぅー……」
わざわざ名前で言ったのに嬉しくもないコードネームで呼び直され、溜息が出る。
「帰ろうか」
「あぁ」
「……何やってんの? 早く行くよ」
「運べよ。疲れた」
「何もしてないでしょ……置いてくよ」
「……チィッ!」
突き立てたベルがでかい舌打ちをすると剣が黒い竜巻に覆われ、中から赤いロングヘアの筋肉質な女が現れた。
黒いノースリーブから伸びたでかい腕が、キャップを被った僕の頭を乱暴に撫でた。
この行為に意味はないのだろう。彼女の手癖のようなものだった。
きっとちょうど良い位置に頭があるだけである。
「歩くのがいっちゃんだりぃ」
「運ぶのも怠いよ。ベルはでかいから」
「んだよ。重くはねぇだろ?」
「まぁね。その辺の人より力はある方だし」
「んだな」
回収した鉄鞭の魔剣をそっと撫でる。
……うん、傷はない。
「行こう」
面倒臭がりのベルと共に、僕達は鉄鞭のダンジョンから脱出するのだった。
昔、空から星座が消えた。
あるべき場所から星が消えた所為で、星座が成り立たなくなったのだ。
消えた星はどういう訳か地球へと吸い寄せられ、落ちた。
この【流星災害】から世界は一変してしまった。
流星は今まで地球には存在しなかった力を帯びていた。
その力は馬鹿馬鹿しいと言われながらも『魔力』と名付けられ、流星は地球に飛来するとその場に魔力の澱みと共にダンジョンを生成した。
これは流星自身が身を守る為の城だ。
地球にやってきて右も左もわからず、それどころか自身の魔力すら制御できずに暴れ狂うモンスター……流星の化身へとなってしまった自分を守る為のもの。
このダンジョンというシステムは、優しさの塊なのだ。
僕達はそこへ踏み入り、暴れ狂う自分を抑えつける流星を助け出す。
僕のような考え方の人は少ないが、僕はそう思いながら仕事をしていた。
「眩しいなぁ」
「まだお昼前だしね」
「午後はダラダラできるぜ〜」
鉄鞭のダンジョンから出るとダンジョンは塵となって消え、魔力の澱みも霧散する。
ダンジョンのコアである流星……魔剣を外に出したからだ。
僕の手の中にある鉄鞭の魔剣は傷一つなく日光を反射させた。
外で待機していた装甲車両の運転手が敬礼をする。
「お待ちしていました。魔剣をこちらに」
「丁重にお願いします」
魔剣のサイズに合わせた金属製の箱へ鉄鞭の魔剣を仕舞う。
大事にそれを荷台に運び入れ、僕達も後へ続いた。
程なく走り出した車の揺れにうんざりしながら、午後をどう過ごすか考えるのだった。
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