第33話 約束

 ミレアスさんのアクセサリー魔道具で変装して、街へ買い物にやってきた。

 もう神官たちに捕まる心配はないのだけど、この変装姿がけっこう気に入っている。


 何を買おうかと迷いながら、大通りを歩く。


「ねえユリ、ジルが言ってたお好み焼きってなに?」

「小麦粉で作った生地に、野菜やお肉などを細かく切ったものを混ぜて一緒に焼くんです」

「なんだか面白そうね。何を混ぜてもいいの?」

「そうですね。甘すぎたり癖の強いものでなければ大丈夫だと思います」


 ミレアスさんはふふっと笑うと、どんどん食材を買っていく。

 葉物野菜や根菜、それに魚介類も。


「私、けっこう魚料理も好きなのよ」

「すみません、いつも持ち帰るのが大変そうなので買ったことがなくて」


 ここでは生簀に生きた魚たちが売られていて、街の人は桶などを持ってきて買っている。

 ミレアスさんは買った魚に保護魔法をかけて膜をはった。

 そして他の食材と同じ紙袋に入れる。


「こうやって持って帰ればいいのよ」

「なるほど。私も保護魔法覚えます!」


 一通り買い物を終え、魔王城へ戻った。

 庭では魔王様とマルブさんが待っていて、大きな荷物を抱えている。


「行くぞ」

「はい、お願いします!」


 今日は、約束の日だ。といっても、行き先はこの森のさらに北の奥。

 魔王様の秘密の場所らしい。

 本来なら魔物が多くいるのでゆっくりできるところではないが、先日の騎士団による魔物討伐で今はいない。

 しばらく経ってくるとまた魔物が発生するので、今のうちに行くことになった。


「ミレアスさんもマルブさんも知らない場所なんですよね?」

「ええ。そもそも、この森の中をうろうろしたりしないから」


 人間も、魔人ですらも行かないようなところ。

 すごくワクワクする。


 魔王様を中心に全員で手を繋ぐ。

 真っ暗になり、次の瞬間、目の前には視界を埋め尽くすほどの大樹があった。


「すごい……」


 青々とした葉を茂らせた大樹にその周りを囲む翡翠色の小さな花は、この森の禍々しさなど一切感じさせない。まるで別の世界にいるようだ。


「これってもしかして循環の魔樹?」

「そうだ」

「循環の魔樹って本当にあったんだ」


 ミレアスさんとマルブさんはこの樹を知っているようだった。

 ただ、初めて見るこの大樹に目を見張っている。


「循環の大樹ってなんですか?」

「この世界の魔力はここからはじまり、ここに還ってくると言われる樹だ」


 つまり、魔力の源ということか。


「この森にあったなんて知らなかったわ」

「今生きている者で知っているのは俺だけだろう」


 たしかにこんな森の奥深くに来る人はいないだろうな。

 でも、本当に不思議な場所だ。

 身体の中を巡る魔力がまるで共鳴しているかのようにじんわりと温かくて、とても心地が良い。

 大樹の荘厳さもあるけれど、目には見えない力が溢れている場所だということがわかる。


 魔王様が私たちをここに連れてきてくれた意味も、なんとなくわかる。


「ですが、こんなところでお好み焼きなんて焼いてもいいのでしょうか?」

「気にしなくていいだろう。神がいるわけでもあるまいし」


 魔王様はそそくさと荷物から道具を取り出し、準備を始める。

 ボウルとフライパン、包丁、まな板を並べる。


 私とミレアスさんは買ってきた食材を切って、マルブさんは生地を混ぜてくれている。

 魔王様は座ってじっと見ていた。


 生地が出来上がると、私が魔法で火を出してフライパンを熱する。

 ジューっという音を立てながら、焼けてくる生地は次第にいい匂いをさせてくる。

 

 そして二本のフライ返しを使って、勢いよくひっくり返す。

 上手く返せて良かった。


「なあ、もういいんじゃないか?」

「まだ中まで焼けてませんよ」

「楽しみね」


 フライパンを覗き込み、待ちきれない様子のマルブさんは可愛い子どもみたいだ。

 魔王様も何も言わないけど、目を逸らさずにじっとこちらを見ている。


 ミレアスさんが普段入れないような具材もたくさん買ったので、私も楽しみだ。


 綺麗に焼けたお好み焼きを四等分に切り分け、持ってきていたお皿に乗せる。


 そして前回は作れなかったソースも今回は用意した。

 トマトや玉ねぎ、リンゴなどを香辛料と煮詰めて作った特製ソースだ。

 もちろん岩塩も持ってきている。


「では、お召し上がりください」


 三人は一斉に食べ始める。

 私も食べながら二枚目を焼く。


 なんだかこの空間にお好み焼きは似合わないなと思いながらも、みんな喜んでくれているし何より楽しい。


「お好み焼き、期待以上に美味しいわ」

「お口に合ってよかったです」

「このソース、パンとかにかけても合いそうだな」

「たしかにそうですね。今度やってみましょう」


 魔王様は相変わらず黙って食べているけれど、ふと見るともう食べ終わっていた。


「二枚目、もうすぐ焼けますからね」


 差し出されたお皿に、焼けたお好み焼きを乗せる。

 するとすぐにパクパクと食べる。

 

 焼きたてなのにあんなにガツガツ食べて熱くないのかな。

 魔王様だし、大丈夫か。


 ミレアスさんとマルブさんもどんどん食べて、私もどんどん焼いた。


 全ての生地を焼き終え、それぞれ最後の一枚をゆっくり食べる。


「急いで食べちゃったけど、もったいなかったわね」

「ユリ、また作ってくれよな」

「はい。お城でも定番メニューにしますね」


 他にも違った具材を入れたり、ソースもいろいろ作ってみようかな。

 なんて考えているとき、魔王様がお皿を持ったままフッと立ち上がった。


 ミレアスさんも何かを感じ取ったのか、急いで私たちの周りに結界を張った。


 するとその瞬間、突風が吹き荒れ、結界の外の木々が大きく波打つ。


 そして風が止むと、目の前に一人の男性が立っていた。

 黒髪で、たれ目の一見穏やかそうな人だ。


 ここ、人が来るんだ。

 呑気なことを考えていると、魔王様は険しい顔をして男性を見る。


「やあジルザール君、楽しそうだね。いつからこんな家族ごっこなんてするようになったんだい?」

「レオナイル、生きていたのか」


 生きていた? ということは魔王様の仲間?

 でもミレアスさんは気を張っているようだし、知らなさそう。

 もっと昔の仲間だったのかな。


「魔王様、この方は?」


「初めの召喚者と共に、俺を封印したかつての友だ――」

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魔王城で家政婦ライフしていたけど、私が本物の勇者だったようです。 藤 ゆみ子 @ban77

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