夢のそのまた夢

「うわっ」

 強烈な既視感があって、奏斗はいくつもの画像を見た。学校の二階と三階を繋ぐ階段、その手すりに体重を預ける柊太、ちらちらと目配せをする桃音と響太郎の顔が、フォーカスされて映し出される。

「当ててやるよ。今日は俺がゴミ出しの当番だった、だろ」柊太は、上から四段目で手すりにつかまりながら体を斜めに放り出して、ゼログラヴィティを披露している。

「それは水曜。じゃなくて、俺ついこの前この光景を夢で見たんだよ、あの……メーセキム? でさ」

「この前っていつよ」

「この前ったらこの前……たぶん、一週間前ぐらい」

「ふうん」踊り場に座る桃音は、もっと心惹かれるものがあるといった感じで、奏斗の話には興味を示さない。

「夢でも、こんな感じだったの?」

「うん。この四人だった」

「へえ……なんか、ロマンチックだね、奏斗サン」茶化す響太郎は、階段の中腹に立って壁によりかかっている。奏斗は、響太郎の、ぞっとするほど長いまつげを見た。水滴を滑らせる葉のようにそれが揺れるカットが、夢でも映写されていた。

 奏斗は、夢の終わりを思い出す。衝撃的なカミングアウトによって、意識は夢から追放された。

「ねぇ、夢ではなんの話してたの?」奏斗の脳内を透視したのか、桃音が口を開いた。

「それが……あの、な」

「なによ」

「いや、俺から言うもんじゃないというか」

「はあ? わけわかんない。夢なんでしょ?」

 踊り場の大きな窓から夕刻の陽光が注がれて、最下段にいる奏斗からは、三人に憂いの影が降りるのがよく見えた。

「柊太と、桃音が、付き合ってる……って」

 一瞬、悪魔が三人の時を止めて、それから、一斉に笑いだした。

「うちと、響がぁ!? なぁんでさ!」

「夢だからな? でも、さっきもなんか、目配せしてたしさ」実際、この二人が付き合っているだろうと奏斗は思っている。

 二人は、「ああ」と声を交わして、それから、柊太のほうを向いた。奏斗は、それを見て、全てを了解した。桃音と、響太郎は、協力関係。本当に結ばれていたのは、桃音と柊太だ、と。

 三人でひとしきり微笑みあってから、響太郎が振り返って、言った。

「付き合ってるのは、俺と、柊太」

 終点に差しかかるジェットコースターのように世界が音を立てて、奏斗はベッドで目を覚ました。

 これも、悪魔の仕業だろうか。奏斗は、アラームを、事前にオフにする。

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