上手な死に方
「あたしは、やっぱり毒、ほら、トイレで死んでるのを発見された、みたいなの。あるじゃない?
」陽茉莉はぼろい教室の椅子に、弛緩してもたれかかってみせた。「あれをさ、もっといい――屋根の上とか、がいいわね」
陽茉莉のすぐ後ろにある縦長の窓には、うっかり飛び降りてしまう神経質な青少年を気遣って、アルミ製の棒が垂直に一本教室を横断している。窓の先には、草むらがあって、環境美化委員会が管理している花壇も並んでいる。
「俺はやっぱ」その棒に尻を乗せ、その両側に手をついて体勢をキープしている俊が言う。「このまま滑り落ちるのがいいよな?」
「死ぬときは裸がいいなあ」クラスの中でもとりわけ図体の大きい健斗は、全員が投げ出したダニエル電池の化学式をせっせこ書きながら口を挟んだ。
「きもっ。変態じゃん、机はなそ」陽茉莉が机を引いたことで、隙間ができた。
「いや、考えればさ、なんで死ぬのに服なんて着てんのよって感じだろ? 大自然様の一ピースに戻るんだぞ」
「いや、ぜったいにやだ。死ぬときはきれいでいたいし、第一、体には死ぬ気でいて欲しくないのよ。ほら、つまんない授業、生物とかね、あのときに、うっかり寝てて、ぱって起きて時計を見たらもうそろそろ授業が終わりそうで、頭がぼんやりしててーってのが一番いいのよ」
「死んだら起きることないんだから」
「そうじゃなくてえ。唐突さを重視してるの、あたしは」陽茉莉が机を叩いた音で、離れたところでプリントを枕にして浅眠に興じていた高島が起きたので、そっちを申し訳なさそうに見ておいた。陽茉莉の筆箱は、交際条件第一条「自立していること」を満たすスタンドタイプだったが、不安定ゆえに衝撃で右に倒れた。そして、入っていたシャーペンとラインマーカーが、さっき開けた隙間へと転がっていく。
「衝撃でペンめっちゃ落ちたぞ」
「え? うそ」
「うそつかねーよ」健斗はふっと息を漏らした。「心も裸だかんな」
陽茉莉は屈んで、机の下を見た。
「拾うか?」健斗は机の下に頭を突っ込んだ。「やめて、裸になったらインク乾いちゃうでしょ」と陽茉莉は返した。「自分で拾います」
陽茉莉が机に体を入れようとしたとき、スカートが俊の足に引っかかる。それに動転したのか、めくりあがるより先に、俊はひっくり返って外に落ちてしまった。
しばらくして、草むらから声がした。
「あーうん、やっぱ、これが一番いいな」
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