第10話 討ち入り
翌日。
朱雀会本部。
会議室。
これからどうするかについて朱雀会のお偉いさんが集まって、ああだこうだ言い合っているが、会議は進まない。
彼らの親分である熊南の機嫌が明らかに悪いので、皆が彼を気にして中身のあることを言えない。
朱雀会は良くも悪くも、熊南による暴力的ワンマン体制だから、皆が彼を恐れ、萎縮してしまう。
熊南の機嫌が良ければ会議は弾むけど、そうでないときは無意味に時間が流れるだけ。
こんな状態で、ホームレスを虐待したことについて謝罪会見をしましょうなんて提案したら、熊南に半殺しにされるだろう。
なんで俺が謝らなきゃいけないんだと。
さらにあの雨宮日向も見つからない。
白虎会に大金払って衛星まで借りたのにダメだった。
その他にも彼を見つけ出すために使った人員、設備は凄まじい量で、かかった費用を考えるだけで気を失いそうな幹部もいたりした。
何より、玄武会から捜査権をふんだくっておいての体たらくだし、朱雀会の長がただの中学生に呪いまでかけられたわけで、プライドという意味でもメンツという意味においても、熊南は恥のかきっぱなしだった。
会議が始まって三十分。
こわばったままの熊南のせいで、ひたすら無言の時間が流れている。
転機が起きたのはそれから十五分後、会議室のドアが勢いよく開いて、雨宮日向捜索の責任者が熊南に駆け寄った。
担当者の鬼気迫る顔を見て熊南は目を輝かせた。
「見つかったか!?」
「見つかりましたっ!」
待ちに待っていた報告に皆がおおっと立ち上がる。
担当者が持ってきたノートパソコンに皆が群がる。
監視カメラの映像に、通りを堂々と歩く日向の姿がバッチリ写っていた。
「間違いない、奴だ。今どこを歩いている?」
「それが、近くです……」
「近く……?」
その言葉に皆がキョトンとした。
言われてみれば確かに見覚えのある通りを日向は歩いていた。
というか、朱雀会の連中にとってはまさに通勤路ではないか。
「まさか
熊南は目をパチクリさせたあと、机を叩いて大笑いする。
「馬鹿か! まんまとやられに来やがるとはよ!」
それから、ここでは書けないくらいの差別的な表現を使って日向を狂人呼ばわりしたあと、
「総力でアイツを歓迎しよう。本部の中ならどういたぶっても構わん。だが殺すなよ。やつを殺すのは俺だ。いいな?!」
威勢のいい返事とともに部下たちは会議室を出ていこうとするが。
「あの、待ってください!」
捜索担当者が血相変えて呼び止めた。
「近くは近くなんですが、奴が向かっているのは本部ではなく宝物殿です。すいません、語弊のある言い方で……」
「ほうもつでん、だぁ……?」
熊南は首を傾げた。
朱雀会は東京にビルを二つ持っている。
ひとつは熊南がいる本部ビル。
そこから車で十分くらい離れたところにもうひとつビルがあって、それが朱雀宝物殿。
飛鳥時代から活動してきた朱雀会が、その長い歴史のなかで収集した美術品や刀剣、さらには法術具と、まさに「宝物」が保管されている美の殿堂。
宝物の一部を常時一般公開しているから、倉庫でもあり、博物館でもあった。
この宝物殿がもたらす利益は朱雀会にとって大変重要。
だがそれ以上に、宝物殿は偉大なる先人たちが命を賭して戦ってきた証、いわば朱雀会の魂である。
熊南は朱雀会の最高責任者としてその事を深く認識していたし、千年護ってきた宝物を、また千年護っていくと固く誓ってもいた。
それはホームレスの命よりはるかに重要なものだった。彼にとっては。
ゆえに、雨宮日向が宝物殿に向かっているという情報を聞いたとき、熊南は初めて少年に恐怖を覚えた。
「まさか、腹いせに宝物全部ぶっ壊すつもりじゃねえだろうな……」
部下たちがゴクリとツバを飲み込む。
ひとりの幹部が熊南に近づいた。
「もしかしたら宝物を人質にして、命乞いするつもりなんじゃ……」
熊南は深く頷いた。
「ありえるな……」
「だったら絶対に止めないと!」
部下たちが一斉に吠え始める。
「わかってる。動ける奴は全員、宝物殿へ向かうぞ!」
たったひとりの中学生を潰すため、熊南は戦力のほぼすべてを出動させた。
本部ビルから宝物殿に続く大通りが朱雀会の車両でいっぱいになる。
その異様な光景を見た通行人は、朱雀会がクーデターでも起こしたのかと本気で考えるほどだった。
自分に恥をかかせた雨宮日向に倍返しを誓う熊南は、車内の無線機を使って部下に指示を出す。
「奴を宝物殿に入れるな、中庭で確保しろ。最大級の防呪対策をしておけ!」
了解を意味するシグナルが一斉に鳴り響く。
「宝物殿にいる来客全員、地下シェルターに避難させろ。訳はあとで話せばいい。それから警報を流して人の流れを止めろ。青龍玄武白虎には事後承諾で構わん。緊急事態だ。あとでわからせりゃいい」
一通り指示を下したあと熊南は監視カメラの中にいる日向に声をかけた。
「小僧……、死にに来るなら望み通りに殺してやるよ」
熊南の言うとおり、日向は自分の死に場所を求めて無謀な討ち入りにでたのだろうか。
――――――――――
朱雀宝物殿。
入場ゲートの受付嬢に日向は穏やかな笑みを浮かべて、
「学生一枚」
と言ったが、女性は義務的にそれを拒否した。
「申し訳ありません。当館は完全予約制になっております」
なのに日向は下がらない。
「キャンセル待ちとかありませんか?」
「そういった販売もしておりません」
それでもなお帰らない。
「雨宮日向が来たと、そちらの会長に連絡してもらえれば多分入れてもらえると思うんですけど」
「あの、お客様……」
めんどくさいガキが来たなと渋い顔の受付嬢。
彼女が持っている携帯電話がメッセージの着信を告げる。
どんな状況であろうが絶対に出ろを意味する朱雀会特有の着信音だったため、ガラス越しに客がいる状況にもかかわらず、女性はスマホを手に取った。
本部からのメッセージを読んだ女性。
表情が凍り付く。
目の前にいる少年が何者か理解したらしく、その場から逃げ去ってしまった。
「あれ……」
どうやらここに来たことがばれたらしい。
そして警報が鳴る。
妖魔や悪鬼が東京に出現したことを意味する警報及び避難命令であるが、そんなに珍しいことでもないので、サイレンを聞いた人々は落ち着いた行動を取る。
東京にあるすべての建物には
外にいる人もどこでもいいから近くの建物に入ればいい。
車に乗っている人も路上に車を駐めて、近くの建物に飛び込む。
ただし救急車やパトカーの邪魔にならないように、道路の端に駐める。
あとは警報解除のアナウンスを待つ。それだけのこと。
それでも退避命令が発動する間は外には出られないから、その間だけ、東京はゴーストタウンになる。
このやり方で東京は妖鬼の被害から国民を守ってきた。
あのダル校に悪鬼が侵入するまで、東京は絶対安全だった。
そして今、ダル校に悪鬼を呼び込んだとされる雨宮日向が宝物殿の中には入ろうと動き出した。
入場ゲートに人がいなくなったのをいいことに、無断で宝物殿の門をくぐり、中庭に入り込んでしまう。
そこには既に大勢の朱雀構成員が、銃を構えて待機していた。
日向を見た途端、ライフルの安全装置を解除する。
構成員のひとりがメガホンを使って呼びかけた。
「投降する意思があるなら両手を高く上げろ!」
親分から殺すなと言われているから、用意した銃弾も殺傷力のない麻痺弾になっている。
「10秒後に発砲する!」
それまでにどうするか決めろということだが、日向は動かない。
見事な日本庭園をくるくる眺めた後、ぽつりと言った。
「大事な話があります」
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