第6話

 「あ、水一杯だけじゃ足りないよね?ジュースとお菓子を持ってくるから待ってて」


 薫さんがキッチンの方でジュースとお菓子を用意してくれている間に、僕は改めて室内の様子を見渡した。何の変哲もない小ざっぱりとした日本家屋だがリビングとキッチンは洋風で、奥に和室と敷布団が見える。


 静かに蝉の鳴き声が聞こえており、窓から入る日差しも穏やかでありながら、屋内の隅々まで輝きをもたらしている。


 少し埃っぽい家ではあったが、それがかえって日差しを乱反射させたように見えて、古き良き日本の夏の輝かしさで溢れている。


 「お待たせー」


 薫さんがジュースとお菓子を持ってリビングに帰ってきた。真っ青なソーダと、和菓子のようだ。


 「ありがとうございます、いただきます」


 僕はソーダを飲みながら、和菓子をいくつか食べた。先ほど水を飲んだばかりだがまだ喉が渇いていたようで、あっという間にクリームソーダを飲み干した。


 「あらあら。ごめんね、よっぽど喉が渇いてたんだね。いまお替わり注ぐね」


 二杯目もすぐに飲み干してしまった。喉を潤して一息つくと、予想以上に疲れていたのか突然眠気が込み上げてきた。


 その眠気は強烈で、足元がふらつくような感覚がありまるで目眩のようだった。


 「ごめん薫さん、僕なんだかちょっと眠くなってきちゃった」


 「大丈夫?疲れさせちゃったかな?奥の和室に布団を敷いてあるよ」


 「使わせてもらいます……おやすみなさい」


 そして僕は眠ってしまった。パソコンの電源をオフにするみたいに。こんなにすぐに眠りについたのはいつ以来だろうか。


 寝ている間に薫さんの夢を見た。じっと互いの目だけを見つめていた。そうするうちに徐々に僕たちは溶け合うような感じになって……まるで互いを壊し合うかのように、ケダモノのように抱きしめ合っていた。


 その時、あの殺人の歌が聞こえていた。二匹の獣の抱き合うリズムに重なってサビの部分がいつまでも繰り返されていた。「刺して、ナイフで刺して、ぐちゃぐちゃにして」という絶叫が、何度も何度も……。


 やがて二匹の獣はバターのように溶け合って一つになり、夢の曼荼羅模様と重なった。




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