第4話


 「そうだ、手を繋ごうよ」いきなりそう言われ返事をする前に手を繋がれた。


 「……!」


 僕はどうしたらいいかも分からずに照れ隠しに俯くばかりだった。


 その間はその人が何を喋っていたのかよく覚えていない。急激に暑くなって目眩に襲われたような気がする。


 ただその人の後ろ姿を眺めながら、手を繋いでみたいと思っていたのは確かだ。それが思わず叶ってしまって驚いたのだ。もしかしたら心が読める人なのかも?とも疑った。


 その人の手も汗でじっとりと濡れていたが、不思議と嫌な感じはしなかった。


 勇気を出して一度だけ手を握り返してみたら、ぎゅっと握り返してくれた。それだけで、とても、とても嬉しくなった。


 僕たちはしばらく畦道を歩いていた。あちこちで夏の日差しが照り返って黄金色に染まっていたが、秋の到来が近いせいか、どことなく夕焼けの色が滲んでいるようだった。


 そのうち山道に差し掛かって、どんどん人気のない方向に向かっていった。途中からは道路もなくなり獣道を歩いていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る