第6話 ​緊迫:淀川を挟む両雄

 天文11年(1542年)の年明けから、木沢長政が滅びるまでのクライマックスシーンを構成します。

 主演:三好長慶(宮沢氷魚)、細川晴元(高橋一生)、松永久秀(香川照之)、木沢長政(阿部サダヲ)


 ​天文11年 正月。淀川を挟んで細川・三好連合軍と木沢長政軍が対峙する中、緊張は極限に達していました。芥川山城あくたがわやまじょうに入った長慶(宮沢氷魚)の陣屋では、重臣たちが焦燥感を募らせていました。

​「若様、木沢めは正月だというのに、一向に動きません。こちらも兵糧が尽きかかっております!」と一人の武将が焦りを露わにします。

​ 長慶は、部屋の隅で静かに茶を点てていました。その隣では、久秀(香川照之)が、いつものように不満を隠さない表情で控えています。

 松永久秀

​「長政は、遊佐長教ゆさながのりの動きを警戒しているのでしょう。紀伊の僧兵が伊勢湾を渡れば、背後を断たれますからな。動くに動けぬ、と見ております」

​ 長慶は茶碗を置き、静かに立ち上がりました。


 ​三好長慶

​「戦は、相手の動けぬ時こそ、動くべきだ。久秀、手を回せ。淀川を挟んで互いに牽制し合うのは、もう終わりだ」

​ 長慶の指示は、「佯動ようどう」。長慶は、長政が最も警戒する紀伊の援軍が「まもなく渡河する」という偽情報を流させると同時に、淀川の対岸で、敢えて正面衝突を避けるような**「弱気の撤退準備」**の気配を漂わせました。

​ 正月二十五日。長慶の思惑通り、長政(阿部サダヲ)は動きました。遊佐長教が紀伊の僧兵を結集させているという焦り、そして三好軍が兵糧不足で動揺しているという偽情報が、野心家である長政の決断を早めたのです。

​「細川め、長慶の小僧は戦の経験が浅い。今こそ、一気に叩き潰す!」

​ 長政は軍を二つに分け、主力は山城の井出に留めて三好軍の撤退を待つ一方、別働隊を出し、河内を支配する遊佐長教の拠点、**飯盛山城いいもりやまじょう**を衝くことを決めました。

​「遊佐さえ討てば、紀伊の援軍は烏合の衆となる。そして細川は、孤立する!」

​ しかし、その動きはすべて、遊佐長教の元に届いていました。遊佐は紀伊からの援軍を待つことなく、長政の軍勢を迎え撃つべく、飯盛山城から軍を出しました。

 激突:太田の戦い

​ 三月十七日。長政軍と遊佐軍は、河内の**太田おおた**の地で激突します。

​ 長政は当初、遊佐軍を圧倒しました。木沢軍の猛攻に、遊佐軍は崩れかけます。その報は、芥川山城の長慶の元にも届きました。

 松永久秀

​「若様、遊佐長教殿、危機にございます!このままでは、木沢長政に河内を奪われ、我々が孤立します!」

​ 細川晴元(高橋一生)は、慌てて長慶の陣屋に飛び込んできました。

 細川晴元

​「長慶!なぜ動かぬ!遊佐を見殺しにする気か!長政の背後を衝け!今すぐ、長政の陣を叩くのだ!」

​ 長慶は、天幕の外で淀川の対岸をじっと見つめていました。その静かな瞳は、長政軍の動きの裏側、そして遊佐軍の真の意図をすべて見抜いていました。

 三好長慶

​「晴元公、ご安心を。遊佐長教は、すでに紀伊の僧兵を、木沢軍が通った道に布陣させています。そして、長政の主力は井出に留まっている。今動けば、我々こそ木沢の主力を相手にすることになる」

​ 長慶が動かなかったことで、長政の本体は淀川を渡ることができず、河内の別働隊のみが孤立します。遊佐長教が紀伊の僧兵たちと共に、長政軍を河内太田の地で包囲したのです。

​ 長政の別働隊は孤立無援となり、三月二十九日、**木沢長政は河内太田の地で壮絶な討ち死を遂げました。**享年四十六。その生涯を野心に燃やし、畿内を震わせた巨大な武将は、思わぬ形でその幕を閉じたのです。


 ​終幕:長慶の静かなる勝利

​ 木沢長政の首級は、即座に京都を脱出していた将軍・足利義晴の元へと送られました。京に平和が戻り、細川晴元は歓喜に沸き立ちました。

​「やったぞ!長慶!お前の働きのおかげだ!これで我らの世だ!」

​ しかし、長慶は越水城の天守で、ただ静かに勝利の報を聞いていました。その手には、自ら点てた一服の茶。

 松永久秀

​「若様。やりましたな。戦場で一兵も動かさず、敵の大将を滅ぼした。これぞ、情報と忍耐の勝利にございます」

​ 久秀は、長慶の冷静な決断に、初めて心からの賛辞を贈りました。

​ 

 三好長慶

​「久秀よ。戦の形は変わった。長政は、武力だけでは、天下を治められぬことを知らなかった。京を去った将軍と管領は、また京に戻ってくるだろう。しかし、真の力は、戦場を動かさぬところにある」

​ 長慶は、淀川を見下ろす天守から、再び京を見つめました。長政という巨大な敵を倒したことで、三好長慶は、細川家の重臣としてだけでなく、畿内を動かす真の力として、歴史の表舞台に静かに立ち上がったのです。

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こんな大河ドラマがみたい!『三好長慶』 鷹山トシキ @1982

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