第4話 蛟竜(こうりゅう)の爪牙(そうが)
導入:阿波との密約
越水城での連戦連勝により、長慶(宮沢氷魚)の武名は畿内に轟き始めていた。父・元長の自害から7年。「機は熟した」と見た長慶は、阿波の守護・細川持隆(父の弟)と示し合わせ、ついに仇敵・細川晴元(高橋一生)打倒の軍を挙げる。
長慶の居城・芥川山城。松永久秀(香川照之)は長慶の隣で、漆黒の夜空を見上げていた。
「若様...あの空の月は、細川家の権威を映しております。これを砕くのは、今でなければならぬ」
「砕くのではない、久秀。理をもって、正しく位置を入れ替えるのだ」
長慶は静かに言い放つ。彼の狙いは、晴元を追い落とすことで、畿内の実権を握る**「摂津半国守護代」**の座を正式に獲得することだった。
対峙:将軍と大名の介入
長慶の突然の挙兵に、畿内は騒然となる。最も驚愕したのは、近江守護・六角定頼(中村芝翱)だった。定頼はすぐに幕府へ駆け込み、将軍・足利義晴(尾上松也)に対策を要請する。
義晴は、武家の棟梁としての権威を守るため、定頼と河内の実力者・木沢長政(阿部サダヲ)に調停を命じる。そして、義晴自身も長慶と晴元に対し、自重を求める内書(指令書)を送った。
長慶は義晴からの内書を受け取りながらも、静かにそれを火にくべる。
「義晴公の**『理』は、将軍の権威を守ること。私の『理』**は、三好の勢力を確固たるものにすること。交わることはない」
膠着:山崎の睨み合い
長慶の命を受けた三好軍は、摂津島上周辺まで一気に出軍。その先鋒隊は、京の玄関口である西岡の向神社まで兵を進めた。
これに対し、細川晴元は、長慶の動きに恐怖を覚えながらも、重臣・三好政長(津田健次郎)に出兵を命じ、自身も山城国境の山崎城へ出陣。両軍は摂津と山城の国境で一歩も引かず対峙し、一触即発の状態となる。
「あの長慶め! わしを脅しているのか!」晴元は山崎城で、苛立ちを隠せない。
一方、政長は長慶軍の威容を前に、過去の勝利の記憶ではなく、得体の知れない恐怖を感じていた。「あやつは...元長とは違う。まるで、深淵に潜む蛟竜(こうりゅう)よ...」
終結:越水城の交換条件
両軍の睨み合いが続く中、六角定頼と政所代・蜷川親俊らの懸命な仲介が続く。定頼は、長慶の武力と器量が若年ながら将軍家を凌駕しかねないことを見抜き、早急な決着が必要だと判断していた。
最終的に、和睦の条件として長慶に提示されたのは、芥川山城を明け渡す代わりに、畿内進出の最重要拠点である越水城を与え、正式に摂津半国守護代の地位を認めるというものだった。
長慶はこの条件を即座に受諾する。武力で手に入れたかった地位と城を、外交戦で合法的に勝ち取ったのだ。
長慶、17歳。長慶は自ら越水城に入城する際、かつて父が追われた摂津の地を踏みしめ、久秀に語りかける。
「父上は、権威と忠義に殺された。しかし私は、この理不尽な世の中で、力と知恵で自らの理を打ち立てる。これが私の戦の始まりだ」
越水城の天守から京を見つめる長慶の静かな瞳には、すでに将軍をも見透かすような、深遠なる光が宿っていた。
エピローグ:野心家の躍動
一方、この騒動の仲介役として立ち回った木沢長政は、論功行賞として畿内最要衝の信貴山城を与えられる。さらに大和の国人衆を味方につけた長政は、笠置城を修築。長慶と晴元を和睦させた直後の8月、河内の高屋城で畠山長経を謀殺するという、野心的な行動に出る。
長慶の「理」が秩序をもたらす中、長政という**「野心」**が新たな火種を蒔き始めていた。
(終)
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