第3話 血と泥の理(ことわり)
導入:越水城の奪還(天文2年 秋)
前話で和睦を仲介したにもかかわらず、本願寺から分離した一揆衆は講和に応じず、なおも摂津で蜂起していた。
長慶は、自らの手で三好家の拠点を確保すべく、一揆勢が占拠する越水城(こしみずじょう)を攻める。「理をもって治める」と決めた長慶だが、この時ばかりは弟の十河一存(加藤清史郎)率いる阿波の精鋭が火を噴いた。
若き長慶(宮沢氷魚)は、奪い返した越水城の櫓の上から、荒れ果てた摂津平野を見下ろす。「理は清い水ではございません。時として、この泥水の中を歩かねば掴めぬもの...」傍らに控える松永久秀(香川照之)は、長慶の静かな言葉に「へえ、若様は面白いことを仰せになる」と、不敵な笑みを深くする。
対立:同族との激突(天文3年)
翌年、長慶は一転して本願寺に味方し、主君・細川晴元(高橋一生)と敵対する。これは、一向宗と争う晴元の立場を弱め、家中の権勢を握る三好政長(津田健次郎)を揺さぶるための策だった。
淀川河口の潮江庄(しおえのしょう)(尼崎市)。長慶軍と、父の仇でもある政長軍が激突する。戦闘の最中、長慶は馬上で、憎しみを込めた眼差しを向ける政長と目が合った。
「そなたの父は、私によって滅びたのだ! 怨みは晴らせるか、
挑発に乗らず、長慶は冷然と馬首を返す。「今はまだ...」
戦いは膠着するが、畿内屈指の実力者である木沢長政(阿部サダヲ)が仲介に入り、「長慶は年少、ゆえに大目に見て許す」という名目で、長慶は再び晴元の下に帰参する。屈辱的な許しだったが、長慶は自らの勢力温存のため、これを甘んじて受け入れる。
苦難:主君の理不尽な命令
帰参から間もない10月、晴元は長慶に対し、京都の平野神社の年貢横領を止め、還付するよう命じる。長慶の家臣が勝手に行った行為だが、晴元の命令は、長慶の剛胆な家臣たちへの牽制だった。
「主君が白を黒と言えば、黒にございます。これが、三好家の忠義の形」
長慶は自ら筆を執り、家臣に還付を命じる書状を書く。その姿を見ていた松永久秀は、長慶の苦渋を察し、その冷徹な忍耐力に畏敬の念を抱く。
転機:木沢長政との連携(天文5年)
天文5年、晴元は再び反細川勢力となった一揆衆の討伐を長慶に命じる。長慶は摂津中島の一揆を攻撃するも、敵の勢いに敗北。しかし、長慶は焦らなかった。
彼は敗走後、すぐさま父の代から敵対関係にあった木沢長政の元へ単身で向かう。
木沢長政は長慶の才覚を認めつつも、「お主の父上は、わしにとって目障りだった。だが、お主は違う。面白い」と評する。長慶は「私には、私を憎む者すら利用する覚悟がございます」と返し、長政との共闘を成立させる。
長政・政長の援軍を得た長慶は、再び中島の一揆を攻撃。鉄壁の連携で、徒立(かちだち)勢(歩兵)中心の一揆軍を全滅に追い込んだ。
長慶の武名は、畿内に轟き始める。父の仇敵の傘下で、ライバルの助けを受け、過去の敵と同盟を結ぶ。長慶は、**血の繋がりや過去の恩讐に囚われない、戦国大名としての「実力主義」**を身につけ始めていた。
「理...それは、勝つことです。勝って初めて、民は安堵する...」長慶は冷たい風の中、静かに拳を握りしめた。
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