三章
第14話
蓮がおもちゃ屋の更衣室で、服を着ている間に、結愛と美咲は、子供用のバックに食料品を詰めていた。
「子供用だからあんまり入らないね」
「そうですけど、多くても持ち運びに不便ですから。医療品も探しておきましょう、包帯や消毒に使えるものがあればいいですけど――」
蓮は着替え終わると、二人を手伝ってテーピングや絆創膏、手の除菌用アルコールをバックに詰めて店を出た。
川はおもちゃ屋に入る前と変わらず、田中の姿もなかった。
「田中さん、帰ってこないね」
「川の先は行き止まりではなかったようだね。おそらく地下三階なんだろう」
「……一人で玉を集める気でしょうか? 鮫神の話を彼にしたのはマズかったですかね?」
「話さないとあの場で殺し合いになっていたかもしれません。彼の事は放っておきましょう。美咲さんのお兄さんの部下を倒すのを優先するはずです。最後までこちらに手は出さないでしょう」
「うー、あの人ケンカ慣れしてそうだから戦いたくないなぁ……」
川の前までバックは三人が、ひとつづつ持っていたが、川を渡るときに、蓮は美咲の分のバッグも担いで反対側に渡った。蓮は反対岸にたどり着いた後、周囲を警戒したが鮫の気配はなく、玉も光らなかった。
蓮は側のトゲザメの棘が刺さって横たわる長身の男に触れてみたが、反応はなく死んでいた。彼は蓮が出会った、地下二階の生き残りの中で、初めて死んだ人だ。これ以上犠牲者出てほしくないと、蓮は彼の死体を見ながら思った。蓮に続いて結愛も恐る恐るではあったが、無事反対岸にたどり着いた。蓮は周りにロープを結べる所がないか見渡したが、先ほどこちら岸の三人が言ったようにロープが届く範囲には、結べる場所は見当たらなかった。
「ロープを結べそうな場所無いね」
「僕たちでロープを引っ張ろう」
蓮と結愛はロープを引っ張てロープをピンと張った、美咲は向こう岸で中々踏ん切りがつかないようだったが、なんとか岩の上に飛び乗りロープを掴んで体勢を整えた、一つ一つの岩を慎重に飛び乗り、やっとのことで岸にたどり着いた。
「……ありがとうございました」
美咲は息が上がっていた、川に落ちるかもしれない、その緊張が疲労を増加させていた。美咲の息はまだ整っていなかったが、三人は川を後にして電気屋に向かった。電気屋の店先の監視カメラはトゲザメを倒した後、ずっと同じ角度で止まっている。蓮の推理では中に玉を持った男の死体が転がっているはずだ。電気屋の入り口、自動ドアは開きっぱなしだ、停電の影響だろう。三人は警戒しながら監視カメラのコードを追って奥に進んでいく、コードは店の奥のドアに続いていた。蓮がコードが入るだけの隙間が空いたドアを開けると、玉が転がってきた。蓮は玉を拾うと、それが光を失って、黒くなった鮫の玉であることが分かった。部屋の中を見ると、ディスプレイモニターが置かれたテーブルに、よたれかかっているスーツを着た男がいた。近くにはバッテリーが置かれていて、コードが複数付いていた。蓮は男を椅子の背もたれの方に押して、顔を上向けにした。目を見開き口は半開きだ、やはり死んでいた。美咲が顔を覗き込むと兄の部下だと言った。モニターを覗くと川が映っていた、川の側に倒れた長身の男が風景の一部のように見えた。部屋の中には他に気になるものはなく、部屋を後にした。
「さっきの男の人、明日までずっとこの部屋に居るつもりだったのかな?」
「地形が変わるのは想定外だったでしょうから。仲間を待ってたのかもしれませんね」
「現在把握している玉は、僕が三個、結愛と田中さんが一個、玉は全部で十個ですので、残っている玉は五個ですよね?」
「はい、そうです。兄は儀式を少しでも早く終わらせたいので、地下の全域に担当を割り振っていたはずです」
「各階層に三個づつ、そして地下水湖で美咲さんのお兄さんが一個持って待ってるわけですね」
「ええ、地下一階に玉を持った人が一人しかいなかったのは、私と拓也さんが奪った玉の持ち主が一階担当だったのでしょう」
「田中さんが地下二階で一個奪ったから、地下二階の鮫は後一体ってことだね」
「ただ、地形が変わり、儀式にこれだけ時間がかかるのは想定外なので、複数人で行動している可能性もあります。気を付けて先に進みましょう」
三人は電気屋の中で使えそうな物を物色した、懐中電灯やポータブルバッテリー、他にも気になるものはあったが、荷物になるうえに海水を浴びて使い物にならなくなるかもしれない。手回しラジオがあったので、試しに付けてみたが、雑音しか聞こえず無駄だった。結界のせいなのか、結界と関係なく地下二階にラジオの電波が届かないのかは分からなかった。
三人は電気屋を出るとエスカレーター側に向かって歩き出した。この先に拓也はいるのだろうか。蓮と美咲は期待と不安を抱いて一歩一歩慎重に前に進んだ。
中央ホールの先は通路が二股に分かれていて、両壁側との間に二店舗、計四店舗が並んでいた。真ん中の店舗は奥の店舗との間に五メートルほどの空間が空いていて反対の道に移動することができた。このエリアは女性物の服が売られていて、蓮にはなじみのない道だった。
店と店との間の空間に近づくと蓮の玉が光りだした、三人に緊張が走った。またか、蓮は少し気疲れしていた。こんな短期間で命のやり取りを続けているのだ、肉体以上に精神的な疲労が蓄積していた。三人は警戒しながら奥の空間に歩いて行った。
そこでは、女性がアフロの男の足を治療していた。その横で子犬を抱いたおばさんが椅子に腰かけている。二人はトゲザメが襲ってくる前に岸にいた人達だろう。もう一人の女性に蓮は、見覚えがあった、停電前にエスカレーター下で田中に掴みかかっていた人だ。彼女が玉を持っているのだろうか。
「あら、あんた達、川を渡ってきたの?」
おばさんがこちらに気付いて声をかけてきた。女性がこちらに振り返った、蓮は一応距離を空けて話しかけた。
「貴女はこの玉を持っていますね」
蓮は手を伸ばし、光っているホホジロザメの玉を見せた。女性はポーチから光る玉を取り出した。
「これを貴方も持っているんですね。この玉について何か知っているの?」
女性はこちらを警戒している、玉から鮫が出てくるのは承知しているようだ、今まで生き残るのに鮫の力を使ったのだろう。
「その玉をどうやって手に入れたんですか?」
「……私は停電の後に、ある人を追ってエスカレーターで地下二階に向かいました。そこでは宙に浮かぶ鮫が人を襲っていました。鮫が人を襲う中で玉を持って立っている男性がいたのですが、その男性は別の小さい鮫に襲われて死んでしまいました。すると、人を襲っていた鮫が光になって男性が持っていた玉に入っていきました。その玉が私の方に転がってきたので、私が拾うと、玉が光って、中から先ほどまで人を襲っていた鮫が出てきて、小さい鮫を食べました、鮫はその後、人を襲うことなく玉に戻りました。その後も地下二階で小さい鮫が襲ってくると、この玉の鮫が助けてくれました。この玉がなければ私は死んでいたでしょう」
女性の声は落ち着いていて敵意は感じなかった。蓮たちは警戒を解いて近づいた。
「医療品ならアルコールとテーピングを持ってますけど――」
「それなら私も持ってます、近くにスポーツ用品を取り扱ってる店がありまして、そこで見つけました」
「食料もありますよ、それもこの辺りにありますか?」
「スポーツドリンクとプロテインバーしかないの、お茶や、ご飯は持ってるかしら?」
おばさんがうんざりした顔で聞いてきた。
「あいにく、飲み物は水、食べ物はお菓子などしかありません」
「そう……地下三階にはいっぱいあるんでしょうけどね――」
「店の中に店員用の冷蔵庫とかがあるんじゃないか? そこにお茶ぐらいならありそうだけどな」
アフロの男が辺りの店を見渡しながら言った。確かにお茶やコーヒーはあるかもしれないが、食料は弁当を持ち込んでいる人がいない限りは望み薄だろう、腹が減ればデパート内で買えばいいわけで、一階にはスーパーもある。
地下二階は食料品を専門に取り扱っている店はない、ここに長期間いるのは食事の事を考えると良い環境ではなかった。
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