第16話 本物の夫婦として
領地巡りの旅が終わりを迎えようとしていた頃、クラリティとガルフストリームの関係は大きく変化していた。これまで形式的なものに過ぎなかった夫婦の絆が、旅を通じて深まり、互いにとってかけがえのない存在へと近づいていた。最後の滞在先であるガルフストリーム公爵領の中心地で、二人は大切な決断を下すこととなる。
---
最後の訪問地
旅の最終地点は、公爵領の中心地に位置する城下町だった。広大な市場や賑やかな広場には、領地中から集まった商人や職人たちが活気を放っていた。クラリティはそんな人々のエネルギーに触れ、自分が守るべきものが何かを改めて考えていた。
「公爵様、奥様、本日はお越しいただきありがとうございます!」
町の代表である長老が二人を出迎えた。長老は敬意を込めて深々と頭を下げ、二人を歓迎した。クラリティも微笑みながら挨拶を返し、初めて「公爵夫人」として人々の前に立つ自分に責任を感じた。
「あなたがこうして領地を守り続けてきたおかげで、人々は安心して暮らしているのですね。」
クラリティは市場を歩きながらガルフストリームにそう言った。彼女の声には感謝と尊敬が込められていた。
ガルフストリームは少し驚いた表情を見せたが、やがて穏やかに微笑んだ。
「君がこうして領地の人々に笑顔を与えていることこそ、私にとって何よりの支えだ。」
その言葉に、クラリティは胸が熱くなるのを感じた。彼の言葉にはこれまでのような義務感や形式ではなく、純粋な感謝と信頼が込められていた。
---
公爵家の宴
その夜、二人の滞在を祝う宴が城下町の公会堂で開かれた。盛大な祝宴には、領地の主要な人物たちが集まり、音楽やダンスが披露された。クラリティは美しいドレスに身を包み、公爵夫人として堂々とその場に立っていた。
「君がこんなにも美しい姿を見せるのは初めてだな。」
宴の中盤、ガルフストリームが彼女の手を取ってそう言った。その言葉にクラリティは頬を赤らめつつも、穏やかに微笑んだ。
「あなたがこうして私を伴ってくださることが、私にとって何よりの誇りです。」
二人はそのまま踊り始めた。会場の注目が二人に集まる中、彼らの姿には形式的な夫婦の冷たさは感じられず、互いに深い絆で結ばれた本物の夫婦としての温かさが溢れていた。
---
突然の危機
しかし、平和な夜は突如として終わりを迎えた。宴の最中、城下町に不審な者たちが侵入したという報せがもたらされた。かつてリーヴェントンに雇われていた残党たちが、最後の抵抗を試みていたのだ。
ガルフストリームはすぐに騎士たちに指示を出し、会場の安全確保に当たらせた。一方で、クラリティも冷静さを保ちながら人々を避難させるために動き出した。
「皆さん、落ち着いてください!こちらの出口から順番に避難してください!」
彼女の的確な指示によって、会場にいた人々は混乱することなく避難を始めた。その姿を見たガルフストリームは、彼女がどれほど頼もしい存在であるかを改めて実感した。
「クラリティ、ここは任せておけ。私もすぐに向かう。」
彼は短くそう言い残し、騎士たちと共に不審者たちの制圧に向かった。
---
危機の中の信頼
ガルフストリームが敵を制圧する一方で、クラリティは避難した人々の安全を確認し続けていた。彼女は子供たちを安心させ、老人たちの世話をしながら、自分が公爵夫人として何をすべきかを考えていた。
やがて、ガルフストリームが戻ってきた。彼の服には戦闘の痕跡が残っていたが、その表情は平静だった。
「全て終わった。君が人々を守ってくれたおかげで、被害は最小限で済んだ。」
彼の言葉に、クラリティは安堵しながら微笑んだ。
「いえ、あなたが領地を守る姿があったからこそ、私も動けたのです。」
二人は短い言葉を交わしながらも、互いの存在を強く感じていた。この危機を乗り越えたことで、二人の絆はさらに深まった。
---
未来への誓い
旅を終えて屋敷に戻った夜、ガルフストリームは静かにクラリティを呼び止めた。彼は真剣な表情で彼女を見つめ、口を開いた。
「これまで君には多くの負担をかけてきた。だが、この旅を通じて、私は君が私にとってどれほど大切な存在かを知った。」
クラリティは驚きながらも、彼の言葉に耳を傾けた。その瞳には、これまでとは違う温かさが宿っていた。
「これからは、形式ではなく、本当の意味で君と共に生きていきたい。」
その言葉に、クラリティの胸は喜びで満たされた。彼女はそっと頷きながら答えた。
「私も、あなたと共に歩んでいきたいです。」
こうして二人は形式的だった結婚を乗り越え、互いにとって本物の伴侶となる第一歩を踏み出した。危機を共に乗り越え、互いの心を通わせた二人の未来には、確かな希望と愛が満ちていた。
これは、形式的な結婚が真実の愛へと変わるまでの物語の終章であり、同時に新たな物語の始まりでもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます