第12話 ガルフストリームの告白

 リーヴェントンの陰謀が防がれ、彼が完全に失墜したことで、公爵家を揺るがしていた危機は一旦収束を迎えた。しかし、クラリティの胸にはまだ小さな疑問が残っていた。リーヴェントンが口にした「ガルフストリームの足元を揺るがすもの」という言葉。その意味を確かめずにはいられなかった。だが、彼女が直接尋ねるべきかどうか、迷いが続いていた。



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疑念と信頼


クラリティは夜の書斎で、ガルフストリームと二人きりの時間を持つようになっていた。以前の形式的な距離感はなくなり、今では共に調査に携わったことで、お互いの信頼関係が少しずつ育まれていた。とはいえ、彼がすべてを話しているわけではないことも、クラリティには分かっていた。


ある晩、彼女は思い切って切り出した。

「リーヴェントンが言っていたこと……あなたに何か隠していることがあるとしたら、私に話してくれませんか?」


ガルフストリームは一瞬だけ目を細めたが、すぐに視線をそらした。その仕草に、クラリティは胸が締め付けられる思いを抱いた。彼の中に何か秘密があることを確信したからだ。


「……君に話すべきかどうか、迷っていた。」

ガルフストリームは静かに言葉を紡いだ。その声にはこれまでにない弱さが含まれていた。


「私にできることがあるなら、力になりたいのです。」

クラリティは真剣な表情で彼を見つめた。その瞳には、彼への信頼と、自分もこの問題に関わる覚悟が込められていた。



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告白の夜


ガルフストリームは深い息を吐き、机に置いた手を握りしめた。いつもの冷静な彼からは想像もつかないほど動揺している様子だった。しばらくの沈黙の後、彼は口を開いた。


「実は……公爵家の財務状況が、思っていた以上に厳しい。リーヴェントンが知っていたのは、おそらくこのことだ。」


その言葉に、クラリティは驚きを隠せなかった。公爵家の繁栄は誰もが知るところであり、経済的な問題があるとは思ってもみなかったからだ。


「どうして、そんな状況に……?」


「私が当主になったときにはすでに、財政は悪化していた。先代の無理な投資が失敗し、借金が積み重なっていたんだ。だが、それを公にすれば、我が家の影響力は失墜する。それに、この屋敷で働く使用人たちの生活も守らねばならない。」


彼の声には、苦悩と責任感が滲んでいた。クラリティは初めて、彼がただ冷徹な公爵ではなく、重い責務を背負った一人の人間であることを実感した。


「それで……リーヴェントンがその情報を使って脅そうとしていたのですね。」


ガルフストリームは頷いた。

「彼はおそらく、私が金を出して問題を解決しようとすると思っていたのだろう。しかし、君が先回りして彼の動きを暴いてくれたおかげで、彼に手を貸すことなく済んだ。」



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クラリティの決意


クラリティはガルフストリームの告白を受け止めながら、彼の力になりたいという思いを強くした。これまでの形式的な夫婦関係ではなく、本当の意味で彼を支えられる存在になりたいと感じたのだ。


「私に何かできることがあれば、教えてください。私はもう、あなたと距離を置くつもりはありません。」


彼女の真剣な言葉に、ガルフストリームはしばらく黙り込んだ後、小さく微笑んだ。それはこれまでの冷たい微笑みではなく、温かみを感じさせる本心からの笑みだった。


「君がそう言ってくれるのなら……私も君を信じて、共にこの状況を乗り越えたいと思う。」


その言葉に、クラリティは胸が熱くなるのを感じた。これまでの形式的な関係が、少しずつ本物の絆へと変わり始めていることを実感した瞬間だった。



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二人の未来


翌日から、クラリティはガルフストリームの協力者として、財務状況の立て直しに向けた活動を始めた。彼女はこれまで築いてきた友人たちとのネットワークを活用し、公爵家の名誉を傷つけることなく資金を調達する方法を模索した。また、屋敷内の無駄を減らし、効率的な運営ができるように使用人たちと話し合いを進めた。


その姿を見たガルフストリームは、改めて彼女の力強さと聡明さに驚かされた。

「君がここまで動いてくれるとは思わなかった。」


「私は公爵夫人ですから、当然のことをしているだけです。」

クラリティの言葉は謙虚だったが、その瞳には確かな覚悟が宿っていた。



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愛の予感


危機を乗り越えるために共に努力する日々の中で、ガルフストリームは次第にクラリティに惹かれていった。彼女の優しさや強さ、そして人を支えようとする姿勢は、彼にとってかけがえのない存在になりつつあった。


クラリティもまた、彼が見せる責任感と弱さに触れるたびに、彼への感情が変化していることに気づいていた。以前のような冷たい壁はなくなり、二人の間には確かな温もりが生まれていた。



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新たな一歩


「ありがとう、クラリティ。」

ある夜、ガルフストリームは彼女にそう告げた。その言葉にはこれまでにない深い感謝と信頼が込められていた。


「私たちはまだ道の途中です。でも、あなたとなら乗り越えられると信じています。」


クラリティは微笑みながらそう答えた。二人は互いを見つめ合い、その先にある未来を共に歩む決意を胸に刻んだ。


これまで形式的だった関係が、本物の夫婦へと変わろうとしていた。真実を共有し、共に困難に立ち向かうことで、二人の絆は確かなものとなりつつあった。これは、二人にとって新たな一歩であり、同時に本当の愛の始まりを予感させる瞬間だった。


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