第11話 リーヴェントンの最後の策

ガルフストリーム公爵家の屋敷で続けられていた調査が着実に進む中、クラリティはかつての婚約者リーヴェントン・グラシアが、この陰謀に深く関わっている可能性を知ることとなった。ガルフストリームの側近たちが調べたところによると、屋敷内で密かに行われていた取引や不審な動きの背後に、リーヴェントンの影が見え隠れしていたのだ。



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再び現れる影


ある日、クラリティが庭園で使用人たちと花の手入れをしていると、一人の男性が屋敷を訪れた。彼の姿を見た瞬間、クラリティはその場に立ち尽くした。その男は、かつて彼女の婚約者だったリーヴェントン・グラシアだった。


「これは驚いた。クラリティ、随分と美しくなられた。」

リーヴェントンは皮肉めいた笑みを浮かべながらそう言った。その姿は、以前のような傲慢さに加え、どこか焦燥感が漂っていた。


「リーヴェントン様、一体何のご用でしょうか。」

クラリティは毅然とした態度を崩さずに問いかけた。かつての彼女なら、彼の前で怯えたり動揺したりしていただろう。しかし今は違う。彼女にはガルフストリーム公爵家の公爵夫人としての誇りがあった。


「お邪魔とは分かっているが、どうしても君に会いたかった。少しだけ話をさせてくれ。」

リーヴェントンの態度には珍しく柔らかさがあったが、それは明らかに彼の作り笑いであり、クラリティにはそれが見抜けていた。


「ここでの話は受け付けません。何か必要なことがあれば、ガルフストリーム公爵を通していただけますか。」

クラリティは冷静に答え、その場を立ち去ろうとした。しかし、リーヴェントンは慌てて彼女の前に立ち塞がった。


「待ってくれ!私が破滅寸前だということは知っているだろう。だからこそ君に頼りたいんだ。」



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リーヴェントンの懇願


彼の言葉に、クラリティは内心で怒りを抑えた。かつて彼女を一方的に婚約破棄し、新しい愛人を選んだ男が、今になって彼女に助けを求めてくるとは。


「あなたがそのような状況にあるのは、ご自身の選択の結果です。私にできることは何もありません。」

クラリティの返答は冷たかったが、それでも彼女は感情を抑えて言葉を選んでいた。


「分かっている……。だが、君にはまだ情けが残っているはずだ。クラリティ、私は君を裏切ったことを心から後悔している。今度こそ君を大切にする。」


その言葉に、クラリティは思わず鼻で笑ってしまいそうになるのを堪えた。彼の後悔の言葉には、真実味も重みも感じられなかった。ただ自分の立場を立て直すために、クラリティを利用しようとしているのは明らかだった。


「あなたの言葉に耳を傾ける理由はありません。それに、私は今、公爵夫人としての生活を送っています。」


クラリティが毅然とした態度で答えると、リーヴェントンの顔は次第に焦りと苛立ちに変わっていった。



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リーヴェントンの本性


「そうか……君もあの冷たい公爵に心を奪われたわけだ。」

リーヴェントンの声には嫉妬と憤りが滲んでいた。彼は一歩近づくと、低い声でこう続けた。


「だが、あの男も完全ではない。君が知らない真実がある。彼の足元を揺るがすものを、私は握っている。」


その言葉に、クラリティは一瞬息を呑んだ。彼が何かを知っているのだとすれば、それはおそらくガルフストリームが進めている陰謀調査に関係しているのだろう。だが、彼の言葉に動揺を見せることはしなかった。


「ガルフストリーム公爵のことは、私が一番信頼しています。あなたの言葉には何の価値もありません。」


冷たく言い放つと、クラリティはその場を後にした。リーヴェントンの目には怒りと屈辱が浮かんでいた。



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ガルフストリームとの相談


その夜、クラリティはガルフストリームにリーヴェントンとの会話を全て報告した。彼女がリーヴェントンの「足元を揺るがすもの」という言葉を伝えると、ガルフストリームの顔に一瞬険しい表情が浮かんだ。


「彼が言うことに真実が含まれている可能性はある。しかし、それが何なのかを掴むには、さらに調査を進める必要があるな。」


彼は冷静にそう言ったが、その声には深い警戒心が滲んでいた。クラリティはその様子を見て、彼がリーヴェントンの言葉に対してただの脅しと捉えていないことを悟った。


「私にできることがあれば、教えてください。」

彼女の言葉に、ガルフストリームは少しだけ微笑んだ。


「君は十分に協力してくれている。それ以上危険なことに関わる必要はない。」


彼の言葉に安心しながらも、クラリティは何か胸の奥に引っかかるものを感じていた。



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リーヴェントンの最後の策


その後、リーヴェントンは公爵家に対して直接的な妨害を仕掛けてきた。彼は屋敷に送り込んだ内通者を利用して、重要な書類を盗み出し、それを武器にガルフストリームを脅そうとしたのだ。


だが、ガルフストリームはその動きを事前に察知し、対策を練っていた。リーヴェントンが仕掛けた罠は、逆に彼自身を追い詰める結果となった。


「リーヴェントン……これが君の最後の策だったのか。」


ガルフストリームは静かに呟き、クラリティに向き直った。

「君のおかげで、彼の計画を防ぐことができた。ありがとう。」


クラリティはその言葉に小さく頷きながら、心の中で自分の役割を果たせたことに満足感を覚えていた。そして、この一件を通じて、二人の間にはこれまでにない絆が生まれていた。


リーヴェントンはついに全てを失い、社交界から完全に姿を消した。その結末を聞いたクラリティは、自分が正しい道を歩んできたことを再確認し、新たな未来への希望を抱き始めていた。


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