クラリティがガルフストリームに使用人たちの不審な動きを報告してから数日が経った。彼はすぐに側近たちに調査を命じる一方で、クラリティの提案を受け入れ、彼女自身も屋敷内での情報収集を手伝うこととなった。これまで形式的だった夫婦の関係が、初めて「協力」という形で変化を見せ始めた。

---

秘密の共有

「調査は進んでいるが、いくつかの点で情報が足りない。」

ガルフストリームは書斎でクラリティと向き合い、これまで得られた情報を共有した。屋敷の裏で密かに行われている取引や、新しく雇われた使用人たちの素性に疑わしい点が多いことが分かってきたが、その背後にある目的までは掴めていなかった。

「私が気づいたのは、何人かの新しい使用人たちが夜遅くに何かを運び出しているということです。」

クラリティは自分が庭で観察して得た情報を伝えた。それは、側近たちが得られなかった新しい手掛かりだった。

ガルフストリームは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにそれを隠して頷いた。

「君の観察力は想像以上だ。正直、ここまでの情報を持ってくるとは思わなかった。」

その言葉に、クラリティは少し頬を赤らめた。彼に認められたことが嬉しい反面、彼女はその理由を自分でも理解できずにいた。

---

屋敷内での調査

クラリティはメイド長の協力を得ながら、使用人たちの日常の動きを注意深く観察するようになった。メイド長は長年この屋敷で仕えている信頼できる存在であり、彼女の目から見ても、最近雇われた者たちの行動には不可解な点が多いという。

「奥様、新しく雇われた者たちは妙に影が薄いと申しますか……使用人同士でもあまり関わりを持たないようにしているのです。」

メイド長の言葉は、クラリティにさらに不安を与えた。

「彼らが何を企んでいるのか分かりませんが、注意深く見守りましょう。何か動きがあればすぐに知らせてください。」

クラリティの指示に、メイド長は深く頭を下げた。こうして、屋敷内での調査はますます活発になっていった。

---

ガルフストリームとの夜の作戦会議

夜になると、クラリティとガルフストリームは書斎で情報を共有し合う時間を持つようになった。彼はこれまで形式的な態度を保っていたが、クラリティが積極的に調査を手伝う姿勢を見て、次第にその態度を変え始めた。

「君の協力がなければ、ここまでの進展はなかっただろう。」

ガルフストリームは、ある夜静かにそう告げた。

「私はただ、自分にできることをしているだけです。それに……この屋敷は私の家でもありますから。」

クラリティの答えに、彼は微かに微笑んだ。それは彼が彼女に対して初めて見せた、本心からの笑みだったように思えた。

「君の家……そうか。確かにそうだな。」

その一言に、クラリティは胸が温かくなるのを感じた。彼女は形式的な夫婦という関係を受け入れながらも、心のどこかで彼に認められることを望んでいたのかもしれない。

---

不審者との遭遇

ある夜、クラリティは屋敷の廊下を歩いている最中に、一人の使用人が妙な荷物を抱えているのを見つけた。その姿に違和感を覚えた彼女は、声をかけるべきか迷ったが、相手がこちらに気づく前に影に隠れた。使用人は荷物を抱えたまま裏庭の方向へ向かっていく。

「一体何をしているの……？」

彼女はその場でガルフストリームを呼ぶべきか迷ったが、ひとまず自分で様子を見に行くことにした。使用人を追いかけ、遠目に様子を伺うと、彼が荷物を地面に置き、誰かと話をしているのが見えた。その相手は、見慣れない外部の男だった。

「取引をしている……？」

その瞬間、クラリティは自分が危険な状況にいることを悟った。すぐに引き返そうとしたその時、背後から声をかけられた。

「奥様、こんなところで何をされているのですか？」

振り返ると、そこにはガルフストリームが立っていた。彼は状況を一瞬で把握すると、クラリティの腕を掴み、静かに言った。

「君はここから離れるんだ。これ以上は危険すぎる。」

彼の低い声に、クラリティは黙って頷いた。そして、そのまま屋敷に戻るよう促される中、彼女は彼の後ろ姿を見つめながら、彼が自分を守ろうとしていることを感じ取った。

---

新たな展開

翌朝、ガルフストリームは早朝から側近たちを集め、昨夜の出来事を元に調査を進めていた。クラリティもまた、彼に報告するために拾得した情報を整理していた。

「これが最後の鍵になるかもしれません。」

彼女はそう言って手渡した紙には、昨夜見た使用人と外部の男のやり取りを示す記録が書かれていた。ガルフストリームはその記録を見つめ、しばらくの沈黙の後に言った。

「君は本当に頼りになるな、クラリティ。」

その言葉に、彼女の胸には小さな喜びが生まれた。形式的だった夫婦関係が、少しずつ信頼と協力の形に変わりつつあることを、彼女は確かに感じ取っていた。そして、この調査が終わった時、二人の関係に何か大きな変化が訪れることを予感していた。

「共に真実を明らかにしましょう。」

クラリティのその言葉に、ガルフストリームは微かに頷き、深い決意の表情を浮かべていた。