五話、海と歌と
玄関を出ると、家の周りに沢山の種類の色とりどりな花が咲きほこっていた。
「わぁ! すっごいねー!」
「ふふふ! お母さまのご自慢のお庭なの」
「昨日、気がつかなかったのが残念だな」
「夜だったから蕾だっんだわ」
「夜は花も寝るんだね」
「そうなの。ほら、見て。この子はお寝坊さんよ」
ソッと、サアヤが手のひらに乗せて見せる赤い蕾は膨らんで、今にも咲きそうな感じのところで止まっていた。
「本当だ。まるで寝てるみたいだね」
「でしょう」
庭の花たちを見て回っていると、玄関が開いてフェリアがバスケットカゴを持って出てきた。
「はい。お待たせ。お弁当よ。三人で楽しんでらっしゃいね」
「ありがとう。お母さま」
フェリアがバスケットカゴをサアヤに渡す。なかなかの大きさで重さもありそうだ。なんだか沢山の美味しい食べ物が入ってる予感がする。
「ボクも手伝う」
「ありがとう。ニャーさん」
カゴの持ち手を片方を持つ。ボクの方がサアヤより小さいから少しカゴが傾いてしまう。
「傾いてしまうわね」
「サンドウィッチにしたから大丈夫なはずよ」
良かった。どうやら傾いてもいい食べ物みたいだ。
「そうなのね。じゃあ、お母さま行ってきます」
「行ってきますフェリア」
「行ってらっしゃい」
手を振るフェリアに、ボクたちも手を振ってから、踏み固められた茶色の道を二人並んでゆっくりとしたテンポで歩きだす。
と、その時、左手の方の崖下でザザァーン……ザザァーン……という音と共に、大きな水たまりが波立っているのが見えはじめた。ダンジョンでは嗅いだことがない匂いもする。もしかしてコレって爺ちゃんが言ってたヤツかもしれない。
「ねー、ねー、サアヤ。あのキラキラしてるのは海?」
「そうよ。私も初めて見るけど太陽に輝いて美しいわね」
「うん! すっごく綺麗! 行ってみたい!」
「ふふふ! そうね。少しくらい遅くなってもレニィお姉さまは怒らないはずよ。行ってみましょう!」
「うん!」
茶色の道を外れて草むらを進んで、石階段を下まで降りていくと、空と海の青の境界線が揺らめき混じりあって輝く美しい光景が広がっていた。
「ニャーさん、お靴を脱いでみて」
「うん」
勧められるまま靴を脱いで砂の上に直接、足をつけつみた。サラサラの砂浜は足が沈んでしまうくらい柔らかくてほんのり温かい。
「なんだか気持ちいいね」
「ふふふ! でしょう! あとね。海に入ってみない? もっと楽しいわよ!」
「入りたい!」
サアヤがボクの手を引いて、パシャパシャと音を立てて海に入っていく。
「ふふふ! 冬だから、とっても冷たいわね」
海水を手ですくって空に向けて放つと、雫は太陽の光でキラキラと光りながら落下して海に再び帰っていく。
「あはは! うん! すっごく冷たい!」
けれど刺すような冷たささえも気にならないほど楽しくて面白い。顔にかかった飛沫を、手の甲で拭って舐めてみた。
「しょっぱい!」
「ふふふ! 味があるなんて不思議よね」
「うん!」
ワンピースの裾を濡れないように手で掴んで、足首までつかる。砂浜とは違い足がジンジンするほど冷たいけど、サアヤと二人で水飛沫を上げ歩いたり走ったりするのは面白い。
「風邪をひいてもいけないわね。そろそろでましょう」
「そうだね。すっごく楽しかったぁ〜!」
「本当に楽しかったわね。ふふふ! お母さまたちが見たら、冬の海に入るなんて、はしたないって悲鳴をあげてしまうかもしれないわね」
サアヤはクスクス笑いながら足を布で拭いて靴を履いた。まだ人型に慣れないボクの足も丁寧に布で拭いて、サアヤが靴を履かせると靴紐をしっかり結んでくれた。
「はい。出来上がり」
「ありがとサアヤ」
ボクがお礼をすると、サアヤを左右に首を振ってから微笑む。
「私は末っ子だったから今まで世話をやかれるばかりだったの。だからね。ニャーさんの世話をしてると妹が出来たみたいで、とっても嬉しいの」
「そうだったんだね。そっか。サアヤがボクの姉さん……本当にそうだったら嬉しいな!」
「ニャーさんは私の妹になってくれるの?」
「もちろんだよ」
「ありがとうニャーさん、とっても嬉しいわ!」
「うん! ボクも凄く嬉しい」
ギュッと抱きしめて「ニャーさんは私の大切な妹よ」とボクの耳元でサアヤは熱のこもった声でつぶやいた。
「うん! サアヤはボクの姉さんだ!」
ボクからも、サアヤの腰に両腕を回し抱きしめかえす。
◇
再び元の道に戻り、目的地を目指して歩きだす。街道の脇のところどころには小さな丸太作りの家が建ってる。その庭先ではエプロンをした女性が洗濯物を干してる最中だ。女性はサアヤとボクに気がつくと手を振る。ボクたちも手を振りかえす。
「レニィの家はどこにあるの?」
「この先の階段で崖下まで降りて、少し進むと池があるの。その近くのはずだわ」
「近いんだね」
「そうね。お昼には着くと思うわ」
ときおりすれ違う人々と挨拶をしたりしながら、しばらく歩くと木製の手すりのある、しっかりした石で作られた階段に辿りついた。
「この下よ」
昨日のサアヤと出会った崖ほどではないけど、かなり下まで階段は続いている。
「♪〜♪♪〜♪〜♪♪♪〜」
黄色のワンピースの裾を風でふわふわ踊らせ、目を瞑り透明感のある声でサアヤは歌いながらリズムにのって階段を降りていく。
「きれいな歌だね」
「私の大好きな曲なの。お母さまの故郷のお歌なんですって。お母さまが、よく口ずさんでるから覚えてしまったの」
「へぇ、故郷かぁ。なんかいいね!」
「ふふふ。懐かしい感じがするわよね」
「うん!」
「ニャーさんの故郷にもお歌はあるのかしら?」
「あるよ。爺ちゃんがよく鼻歌を歌ってたんだ」
「ぜひ聞いてみたいわ!」
グリーンの目を輝かせサアヤはボクの手を握りしめる。
「♪♪♪〜♪〜♪〜〜♪♪〜」
握られたままの手を胸にあて、爺ちゃんのぬくもりと気配を感じながら鼻歌を口ずさむ。
「素敵なお歌ね!」
「ボクのお気に入りなんだ」
手を繋いでゆっくり石の階段を下まで降りきると、少し先に池が見えはじめた。海とは違って波もなく静かで匂いもキツくない。
「池を通りすぎたところにある赤い屋根のお家にレニィお姉さまが住んでるの」
サアヤの指さす方を見ると、池の近くの木々の間から木造で作られた赤い屋根が特徴的な小さな家が建っている。
「可愛い家だね」
「素敵よね。レニィの旦那様がご自分で建てたって聞いたわ」
「自分で? もしかしてスキルを使ったのかな?」
「ふふふ! 違うの。ものづくりが趣味なんだそうよ。だからね。森から木を切るところから全て手作業で建てたんだそうよ」
「うわぁ! 凄すぎるね!」
建物や道路を作ったり、作物や服や日用品といった色々な生活に関わる作業は、専門スキルを持った人々が仕事として依頼を受けて作るんだと爺ちゃんから聞いていたから、すべて手作りと言うのはビックリだ。
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