六話、三人だけの秘密


 赤い屋根の家の周りを囲むようにして緑の木が植えられ、木々の途切れたところに木の板で作られた門があって、門扉には木製の看板が引っ掛けられている。


【ようこそ。ルイス手作り工房へ】


「わぁ! お店みたいだね」

「まぁ! ついにお店を出したのね」


 ボクとサアヤの驚きが重なった。


「えへへ。アタシの旦那、今までは街の工房まで修行に行ってだんだけどさ。家を建ててみせたら、親方さんがスキル持ちじゃねーのにやるな! とか言って、すぐに一人前だって認めてくれたみたいなんだよね」


 背後からクスクスと笑い声が聞こえてきた。


「やぁ! 久しぶりサアヤ。来てくれたんだ」


 振り返るとサアヤを、そのまま少し大きくした感じの女の子がVサインをしてニカッと笑っていた。手には赤くつやつやのリンゴの入ったカゴを持ってる。


「レニィお姉さま、本当にお久しぶりね。それに、ふふふ! 私にそっくりだわ」

「父さまが言ってたとおりサアヤ、目が見えてるんだね!」

「そうなの。この子のおかげよ」

「あ! 昨日の夜、父さまが来た時にサアヤの救いの神だ! とか、聖獣様だ! とか大興奮で話してたけど、もしかしてその子がニャーさん?」

「ふふふ! お父さまレニィに伝えてくれてたのね。そうなのよ。可愛いでしょう!」

「うん! うん! めちゃくちゃ可愛いじゃん! ニャーさん! アタシはサアヤの姉のレニィよ。よろしく!」

「よろしく。レニィ」


 元気いっぱいに、ぴょんぴょん飛び跳ねながらボクの手を握る。麦わら帽子のよく似合うレニィはサアヤにそっくりだけど、肌は日に焼けて小麦色だし、冬なのに生成りの半袖シャツを着て、膝小僧の部分が少し破れた茶色のズボンを履いている。お転婆娘って雰囲気だ。


「それにしてもスキル持ち以外は、なかなか自分のお店は持てないのにレニィの旦那様は凄いのね」

「アタシの旦那だもん当然よ!」


 まるで自分が褒められているかのように、レニィは胸を張って誇らしげだ。


「あっ! 買い物カゴ置いてくるから庭でも見てて」

「分かったわ」

「うん」


 門を開けてレニィが入っていく。そのあとをサアヤと一緒についていく。すると庭いっぱいに緑が広がり瑞々しい野菜が実っていた。


「わぁ! 畑だ!」

「アタシの自慢よ!」

「レニィが作ってるの?」

「そうよ。アタシは農業スキル持ちなの。だからどんな荒地でも作物を育てる自信があるわ」


 再び胸を張ってレニィはVサイン、更にウインクまでしてみせる。お転婆娘じゃなくて逞しい女性だった。


「ふふふ! お母さまが作ってくれたサンドウィッチのレタスとかきゅうりもレニィが育てたのよ」

「わぁ! そうなんだね」

「昨日の夜、寝る間際に父さまが急に野菜を取りにきてビックリしたけど、母さまがサンドウィッチを作るためだったのね。あっ! ここで待ってて、すぐに支度してくるから!」

「じゃあ、採れたてなんだね。美味しそう。うん。待ってる」


 ボクの言葉をすべて聞く前に、レニィは軽い身のこなしで畑をぴょんと飛び越え勢いよくドアを開け、バタン! と大きな音を立てて家の中に入っていってしまった。かなり素早い動きだ。


「ねぇ、サアヤ」

「なぁに?」

「あのさ、サアヤを連れていきたいところがあるんだ」

「どこに連れていってくれるのかしら?」

「ボクが地上にきて初めて見た光景。すっごく綺麗なんだ。だからサアヤたちにも見せたいんだよね」

「じゃあ、今日のピクニックはニャーさんにおまかせしようかしら?」

「うん! まかせてよ」


 そうと決まれば準備をしなくてはいけない。連れていきたい山は動物たちだけじゃなく、凶悪な魔物もいて人間たちには過酷だからだ。


 さて、どうしようか?


 頭の中で思いえがく。すると爺ちゃんのスキルは組み合わせることも出来るのに気がついた。沢山の数えきれないほどのスキルの中から選んでいく。スキルは五個まで重ねがけができるみたいだ。


 集中して身体の中心に魔力を集める。


 ボクは体が小さいから二人を乗せるために巨大化と、スケルトンだとゴツゴツスカスカして乗せられないから獣化+掴まりやすいように背中の毛、たてがみを長めに設定してスキルを発動させる。これできっと大丈夫だと思う。


「サアヤ、ボクが変幻するから背中に乗ってみて?」

「小さなニャーさんには乗れないわ。潰れてしまうもの……」

「大丈夫! ボクは身体を大きくすることも出来るんだ。見てて」

「そんなことも出来るのね。分かったわ」

「じゃ! いくよ!」


 ボフン!!


 いつもより少し大きな音が響く。


「まぁ! ニャーさん黒豹のようだわ」


 目をキラキラ輝かせ微笑みながらサアヤは、ボクの首に両腕を回し抱きしめてきた。


「えへへ! どうかな?」

「とっても素敵よ。それだけじゃなくて、日の光でツヤツヤ光る毛並みも、金色に少しだけ緑が混じった瞳もとても美しいわ」

「サアヤに褒められるとすっごく嬉しい!」


 喜びのあまり無意識に尻尾がブンブン揺れてしまう。


「魔物!?」


 と、その時レニィの悲鳴がこだました。大きな手さげ鞄を持ったまま、家のドアを開けた姿勢で固まってしまっている。


「レニィ。この子はニャーさんよ! 姿を変えてはいるけれど怖くはないわ」


 サアヤが駆けよって、レニィを落ちつかせてくれる。そりゃビックリすると思う。だってボクの見た目は、牙も爪も鋭くて魔物そのものだからね。驚かせてしまったショックで、尻尾がたれさがってしまう。


「ボクだよ。ビックリさせてゴメン……ね……」


 謝ると、レニィは首を左右に振ってからニコッと笑ってから、ボクの傍にきて頭を撫でてくれた。


「ビックリしたけど、ニャーさんなら魔物だったとしても怖くないよ! それによく見たらかっこいいじゃない!」

「ありがとレニィ」

「ふふふ! ニャーさんは素敵よね」

「うん! うん! アタシはさ。旦那と素材探しに山に行くことも多いから魔物を見たことあるんだけど、こんなつやつやな毛並みの美しい魔物は見たことないよー!」

「えへへ! サアヤとレニィに褒められると嬉しい!」


 しょんぼりとした気持ちが、すぐに喜びに変わって、たれさがってしまっていた尻尾もユラユラ揺れる。テンションが上がって走り出したくなってしまう。


「ボクの背中に乗ってよ。サアヤとレニィを連れていきたいところがあるんだ」


 二人を見つめながら伏せの姿勢をとる。


「本当に乗ってしまっても、いいのかしら?」

「いいの?」


 不安そうにボクに確認する、二人に向かって頷きで答える。二人は、ゆっくりボクを傷つけないように背にまたがる。


「しっかりボクの毛を掴んでてね!」

「分かったわ」

「分かった」


 二人が両手で背中の毛、たてがみを掴んだのが分かると、さらに尻尾で二人の背を落ちないように支える。


「じゃあ! 行くよー!」


 最初はゆっくりレニィの家の門を抜け、池のふちをなぞるように歩き、その先の草原を少しずつ速度を早めて走り抜ける。


「ふふふ! やっぱりすれ違う人たち、みんな驚いているわね」

「そりゃそうよ! まさか魔物に人間が乗ってるなんて思わないもの!」


 すれ違ったり、ボクが追い越したりすると、人々は目をまんまるにして口までぽっかり開けて、立ち止まって呆然としてしまってる。


「もしかして魔物は人間を乗せたりしないの?」

「私は聞いたことは無いわ。レニィは?」

「アタシも無いかも。テイマーはいるにはいるけど、人間を乗せたり出来るほどの高ランクの魔物をテイム出来る冒険者はいないと思うよ」


 二人の言葉を聞いて、爺ちゃんが「強すぎる魔物は人間たちに恐れられ敵とみなされるんだぁ。だがニャーは純粋で素直だからなぁ……その力を利用しようとする悪い人間もいるかもしれない……だからなぁ。必要以上に見せたり使ったりしては駄目だよぉ」と言っていたことを、ふと思い出した。


「そうなんだね。じゃ、あまり人前では使わない方がいいかな?」


 最初ボクはまだSランク魔物だった。それでも隠さなくてはいけないと、事あるごとに爺ちゃんはボクに教えてくれた。今は爺ちゃんの全てがボクの内にある。SSSランクだと分かったら危険かもしれない。ボクだけじゃなくサアヤたちも危険に晒すかもしれないのだ。


「そうね。その方がいいかもしれないわ」

「アタシたちだけの秘密にしておきましょう!」

「分かった」


 ランク隠蔽スキルは常に発動させてるから、CかBランク魔物程度に人間たちには見えてるはず。だけどこれからはスキルを使う時はもっと慎重にしようと思った。


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