08 もはや三人

「なあ、一号。カーカーカッコウは三つ子を産むのかな?」

「知らんよ。知ってたら獣医して飯食えるって」

「よっぽどお腹空いているんだね」

「イトがチラつくからいけないんだ。可愛い顔して」

「母親似ですのよ。ホホホ」


 とにかく卵を手に取る。さっきまであたためていたのか、僅かに命の息吹を感じる。


「イトさあ。中身はヒヨコでしたとか勘弁してくれよ」

「じゃあ、育てて肉を食べる? そういうご趣味もあるみたいで。バロットとかいうらしいけど」

「それって全く加熱しないのか」

「茹でるって読んだことあるよ。経験はないけど」


 二人して卵の前で腕組みをしていた。

 じんわりと汗を掻いてくる。

 陽射しも強くなり、俺らは上着を脱いだ。

 男同士だし、いいよな。


「僕は今回はパス」

「あ、俺も。食べちゃったら後で泣きそう」


 ゲンジョウはイトに懐いているみたいだから、彼に任せる。

 普通で考えれば、山の上は涼しくなりそうなのに、無茶苦茶暑い。


「ああ、アイスほしい」

「今度氷結できたら口に含んでみたら?」

「いいね」

「でも、口の中切ると思うけど。鏡みたいなものだからね」


 またもや彼に引っかかってしまった。


「あのさ、イト」

「ほい」

「使える魔法があったのに、芸がないって開き直っていたよな」

「本当は、ここに具材さえあれば一瞬でカレーライスとか作れたら、それって魔法じゃない? 人の役に立ってこそだよ。敵を倒すとかは論外。ゲンジョウだって、懐かせれば鼻たれ注意で一緒にいられるよね」


 ゲンジョウが脚を絡ませてへたり込んでしまった。

 息も荒い。


「水か?」

「そうだよ。この辺に水はないと思うけど。僕は火があれば水にできるんだが」

「なんで」

「属性反発魔法らしいんだ……」

「いわば、属性が変わる。願わくば逆にか?」

「ズバリだね」


 俺に掴まれとゲンジョウを抱き起した。

 こうしてみれば可愛いじゃないか。

 ここまで走ってくれたんだ。

 三人でゴールも夢じゃないね。


「あ、茂みの方を見て向こう側で焚き木をしているみたいだ」

「俺とゲンジョウはここで待つよ。茂みを越えるには重すぎる」


 彼はピュッといってしまった。

 人がいるのだろうか。

 話し込んでいる感じだ。

 ゲンジョウを置いて暫く待つ。


 ――これからの三人はゲンジョウの働きが大切だと、それは感じていた。


【了】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜光虫~朱のマジシャンが拾ったのはヴァンパイア一号 いすみ 静江 @uhi_cna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画