07 伏線カッコウ

 カーカーカッコウ。


「ん、んー!」

「ふわーあ。よく寝たか朱」

「昨日は僕の気の利いた裏技で結界突破。いやあカッコイイ」

「自己肯定感に満ち溢れているね」


 ゲンジョウが立ち上がって身を震わせる。


 ブヒヒヒイヒ——!


「あったかかったよ、ゲンジョウ」

「あ、俺たちって、一号と朱って呼んでるよな、カッコイイ名前ないのか?」

「マジシャンかヴァンパイアしかないけど。まあ、本来はイトとユウキだね」

「じゃあ、俺もユウキって呼ばれたい」

「努力次第では僕だってそう呼ぶよ」


 なんか、根性論?

 努力か。

 ヴァンパイアは血を吸うしか知らないんだけど。

 あとは——。


「ヴァンパイアってさ、動物と話せるってのも裏設定だな。ゲンジョウと普通に会話できるのも俺のお陰かも知れない」


「なあ」って馬の鼻筋を撫でてやると、心地いいのか……。


「うおおお! 鼻紙じゃないっす。いくらボロくてもシャツだから!」

「僕の方がいい服着ているし」


 彼が間にさっと入った。


「だったら、俺はボロくてもいいし」

「なにそこ意地はってんの」

「転生して? 急にボロ過ぎだろう」

「それよりご飯目指そう。食べたいもの考えると楽しいじゃん」


 ブヒヒイ。


「軽くあしらわれてしまった感二割増し」

「僕的には五割増し」

「矜持なんか持っていても無駄。すてちまいな」

「だって、僕はご飯よりもアナタのことを考えているんだよ。ご飯だって僕のをあげるから、優しくして」


 ……優しくって。

 十分、駅伝隊隊長としては優しくしているが。


「俺さ、三年生なのに意地でも一番にゴールを決めたかった。しかも往路でなく復路で」

「皆同じようなもんじゃない」

「実は、告白されたことがあって。次の駅伝で一番輝くメダルをとったら……」

「赤くなっているよ。それは金メダルだよね」

「うん、金メダルをくれたら、さ。ほら、あのさ。よくあるさ」

「分からないんだけど。チューでもしてくれるってか? だとすれば策士だな。他人のとったメダルなんて本人にとっては無意味だろう。売る訳でもないし」


 二人は走るのをやめた。

 普通の歩幅で歩いている。

 馬も俺が手綱を引いている。


「ねえさ。なんで駅伝から落ちたのに山岳駅伝してんだろうね」

「ご飯以外にいいことあるんだろよ」


 ブヒヒ。


「だって、聞いて!」

「は、はいさ」

「手を繋いでもいいって、いいって言うんだよ。照れまくりじゃん!」

「そ、そうなんだ」


 妄想パワー。


「俺の妄想寸劇を聞いてくれ」

「話だけなら」


『ねえ、寒くない? ユウキくん』

『そうだね、俺のポケットに手を入れてごらん。カイロがあるよ』

『あっつい。石が入ってたじゃない。もう、酷いんだからプー』

『笑っても拗ねても可愛いね、シュウカさん』


 シュウカは長い黒髪の艶を輝かせ、この世のどの者よりも美しく微笑む。


『シュウカは可愛く発音してよ』

『だね。愁華しゅうかさん』

『今度、お父さんに会ってね』

『は、はい。喜んで』


「おー。ゲンジョウ。ここで休むか」


 ブヒ。


「あー? ロマンチック街道を新婚旅行に選ぶまで聞いてくれよ」

「また今度ね。僕は自分の血が赤くなかったのでショック中なの」

「多少はあるだろう。元の世界へ帰ればお互いにただのユウキとただのイトに戻るよ」


 彼は休む気満々だったのに、立ち上がってゲンジョウを立たせた。


「ゆっくりでいい、山頂へ行こう」

「お腹が空くけどな」

「玉子ならあったぞ」

「え? 食べられる?」


 少し戻って高い所を飛んでいるカーカーカッコウが、下の草むらに巣を作っていた。

 卵は三つ。

 まだ割れていない。


【ブヒヒヒ。食べられる玉子だぞ】


「そうきたか!」

「幸先いいな」

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