05 マジシャンVSヴァンパイアまずはファイヤー

「きっと俺らの前に夜光虫が現れる」

「それしかないでしょ」


 きらきらを纏ってバタフライが現れた。


 ——お待たせ、仔猫ちゃん。


「なんだよ、少なくとも俺はもっとガタイがいいぜ。猫はともかく仔猫はないだろ」


 ——ポスト山に先に登り着いたものへ食事を差し上げましょう。夕方なので、朝食になりますね。


「どういう意味だ」

「あのさ、一号。今から登っても辿り着かないってことじゃないか」

「目と鼻の先なのに?」

「世の中不思議なことがある。僕には結界を張っているのが分かるよ」


 ——では、パンでも焼きますか。


 きらきらっと去ってしまった。

 本当に今日中に着かないのか。

 駅伝でも、走る前に飯は食うなと言われてきた。

 それなら理にかなっている。


「お馬さんの玄奘さまよ、先にゴールにいってみててくれよ」


【なんざますか】


「俺とイトは山岳駅伝の途中で消えてしまったんだ。どんな手を使ってもいいと言うルールでどちらが先に着くか判断を任せたい」

「ええ? 本当に今から走るの? だったら貴族服脱ぐよ。ハンデになるからね」


 彼は脱いで下着になったら馬の背に預けた。

 多少のことなのに。

 まあ、山の上は涼しいからな。


【てくてく先へいく。本当にポスト山を登りきれたら、褒めてやる。馬でも難儀なんだよ】


 スターターピストルがないな。


「イト、俺の合図で構わないか」

「それぐらいはいいよ。くしゃみとかすんなよ。結構驚く方だから。それに、玄奘さまも放っておくまい」


 登ってきた山を見下ろす。

 スイッチバックみたいにしてきたんだな。


「下を見るな。足がすくむから」


 イトが俺にぴとっとくっつく。


「な……。なん?」

「僕に気遣いなんて、さすが先輩です」

「急に駅伝モード?」

「僕、先輩が一年のときからのファンだったんです。沿道で見ていました。応援していました。萌え萌えでした」


 俺はばっと背を反らす。


「あん、困っちゃいますよ」

「勝手に困っちゃえよ。馬のはなたれ拭いたくらいしか優しくしてないぞ」

「じゃあ、はなたれの縁」

「つっ。きったないな」

「本気で走ってくださいね。先輩の本気に僕の本気が勝ったら、それが勝利ってものでしょう」


 そっち系な訳?

 俺って美男子でもないし、なよっともしてないし、走る以外にできることって、テストで零点をくらうくらいだよ。


「イト、かわいいのは分かった。先ずは勝負だ」


 貴族靴を履いていた彼が横に線を引いた。


「ここから、真の恋愛スタートです」

「んが? 真の恋愛? 馬にか?」

「いずれ分かりますよ」


 カーカーカッコウ。


「鳥も応援しています。三、二、一」

「スタート!」


 カーカッコウ。


「俺は負けない」

「だって血を吸いたいんでしょう?」

「今は関係ないが」


 馬で楽々登山をしたものだから、坂のキツさによろけてしまう。

 背中が熱い……。

 火山でもないのに、背中が?

 振り返らないで走るタイプだが、悠長にしていられない。

 ちらっと見た。


「ファイヤー!」

「本気か——?」


 掌に炎を燃やしている。

 技がないといったのに。


「——嘘つきだあ!」

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