04 ひとっ飛び

 【わたしは、千里の道を一日でいけます。お二人で乗られますか?】


 俺たちは顔と顔を向き合わせた。

 目で語っても落馬しそうとしか読み取れない。

 ゴールについても一人だったら。


「玄奘、北斎漫画好きかな? 夜光虫による地図らしいけどポスト山の頂までの地形なんだ」

「俺たちでそこに行かないとならないんだ。到着したら美味しいもんあるかも。お裾分けするから乗せてくれないか」


【さすがは玄奘さまは? ほうれ、さすがはは?】


 血の泪がでそうってこのことか。


「さすがは玄奘さま」

「さすがでございます」


【OK、OK】


 右前足で彼を先に乗せ、その後ろに俺を乗せた。

 落ちないようにしないと。

 とはいえ、たてがみは掴めない。彼の後ろから腕を寄せる。

 朱も俺の腕を離さないようにしてくれた。

 妹じゃなくてもイトでも十分可愛いし、なんだか愛おしいな。

 でも、変な人じゃないぞっ。


「一号、落馬するなよ。そっちが殆どお尻に乗っているんだからな。ちなみに巻き添えも困るからな」


【ブルウウウ——。クキイイ】


 もの凄い。

 経験したことないけど、ハリケーンの中にいるみたいだ。

 グルグルって風が横に吹いて、前から軽く悲鳴を聞いた。


「……ひあああ」

「しっかり。俺がいるから」


 かくいう俺もだ。


「どやああ……」

「僕がいるからさ」


 いちゃいちゃしちょる場合か。

 頬に風を含んで、上手く話すことができない。

 口が渇くな。

 目にも砂が入ってきた。


【クキ】


 急ブレーキに、俺らは初めて背中からずり落ちた。


「はい、お疲れ様。どうやら殆どポスト山の頂近くにきたみたいだね」


 彼があたりの草を摘んで馬に上げている。

 馬はやっぱり馬なんだ。

 ダッシュのチートがあってもそれはそれ。


「じゃあ俺からも」


【プイチョ】


「なんでっすか。同じ草だよ」


【満腹ざます。ブヒ】


 俺ってがさつなところがあるから、見抜かれているのかな。

 どうみても朱の方が優し気だし。

 女の子だったら、俺だってラブレター渡すよ。

 はっ。

 ヤツは男性だ男子だ。


「一号」

「んだよ、物思いに耽っている男をつかまえて」

「え? なにそれ」


 顔が一瞬にして沸騰した。


「かあ。俺が顔を赤らめたら悪い訳?」

「うんもう、どういう岐路に立っているんだよ、僕達は」


 いちゃこらは続くよどこまでも。

 まあ、少しは涼しくなったし、いいか。


 キラキラキラ……。


「一号、嫌な予感がしない」

「するな」


 金粉がひらひらと散る。

 中からいつものお姉さんだ。

 マドモアゼル夜光虫。

 おばさんで婚姻していたらお嬢さんではなくなるな。

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