-第二十四夜- 仮装
友人の頭には、魔女の三角帽子が乗っかっていました。月の初めに物置で見つけたものよりは小ぶりで、彼の小さな頭にちょうどいい大きさです。
「……」
それと、背中にはマントがつけられています。質の良い布で作られたそれは、蝋燭の光に照らされて夜空のような輝きで友人の小さな身体を包んでいるのでした。
そんな装いで私室に入ってきた友人に、私は思わず顔を綻ばせてしまいました。
「お似合いですよ」
「それなら、あのお二人にもみくちゃにされた甲斐があったというものです」
友人の尻尾は床を不機嫌に叩いています。彼が魔女と蜘蛛女に連れ去られたのは日が落ちた頃、そして今は既に日付を超えて、真夜中です。窓の外、秋の虫たちも眠りについて静まりかえっています。
「蜘蛛にされたり、悪魔にされたり、カボチャにされたり……もう、ほとほと疲れました。だってあの人たち、僕に仮装をさせてはかわいいかわいいって、黒猫をなんだと思っているのでしょう」
友人は椅子に腰掛けた私の太腿に降り立ち、ため息と共に丸くなります。小さな三角帽子の先っぽを指で弄りながら、私は魔女の装いの友人を労りました。
書斎机の上には、一足先にやってきた件の二人からの贈り物が置いてあります。背中につける悪魔の羽、カボチャのかぶり物、蜘蛛の脚。友人の機嫌がなおったら、つけてもらうようにお願いしようか、なんて。
「あなたは何でも似合いますからね、最高の黒猫です」
「…………」
私の言葉に、友人はちらりとこちらを見ました。まんざらでもない様子で尻尾の先を動かしたかと思えば、うつらうつらとしはじめます。私はそんな彼の身体を指先で撫でつつ、手にしていた本に視線を向けました。
やわらかな毛並みは微かな息づかいに波打ちます。時計が針を刻む音に合わせるかのような――ぷう、ぷう、という可愛らしい音が耳に届き、太腿に伝わる重みが、彼がここにいることを私に示してくれるのです。
ささやかな幸せ。
こんな夜がいつまでも続けばよいのに。
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