-第二十一夜- ホウキで空を飛ぶ
毒林檎を送ってきた魔女様の曾孫――レイチェル嬢も、偉大な曾祖母にならい、魔女でした。ただ彼女は些か現代的で、森の奥の小屋で魔法の薬を作ったり動物たちとおしゃべりをするよりは、自分の手で作った箒で夜中じゅう飛び回ることが大好きなのでした。
「遅くなってマジごめんね!」
「いえ、ハロウィンまでまだ一週間以上ありますから。しかし驚きました、毎年一番にやってくるあなたが来なかったので、どこかで迷子になっているのかと」
「そう! それ! 聞いてエリオ!」
「はい」
私は紫色のソーダが入ったグラスと、パンプキンパイをのせた皿を彼女の前に置きました。それを見た彼女は目を輝かせながらフォークを手にとります。鋭く長い爪は色とりどりに塗られ、小さな宝石で飾られていて、それが蝋燭の灯りをうけてきらめくのに、私は目を細めながら彼女の言葉を待ちました。
「今年もあーしがエリオんちに一番にいってやっからって、九月にはいってから箒の改造を始めたんだけどさぁ、試飛の時に箒が爆発しちゃって!」
「箒って爆発するんですね」
彼女から出てきた言葉に、私は素直な感想を口にしました。箒は爆発する。家中の箒が爆発しないか、一度見てみる必要性を感じます。
「穂の部分におまじないかけたんだよね、ありえねーぐらい速くなんないとシバくって。何がいけなかったんだろ」
「暴力で脅そうとしたのがよくなかったのでは?」
「あー、やっぱそう?」
レイチェル嬢は気まずそうな顔で、ストローでソーダに息を吹き込みます。ぷくぷくと気泡が泡だって、紫色のそれは彼女をからかうように弾けました。
「それで……おばあちゃんにお古の箒を借りて飛んできたの。すっごい遅い。カタツムリかって!」
「そんなことを言ったら箒が拗ねますよ」
苦笑いでそう諭せば、レイチェル嬢は口をへの字に曲げました。とにかく、彼女が無事に到着出来てよかったとほっとしていると、足下に柔らかな感覚が伝わりました。足下でお昼寝をしていた友人が起きてきたのでしょう。
「あー! クロぴ起きたぁ?」
レイチェル嬢がきゃらきゃらと笑いながら机の下に手を伸ばします。ふにゃ、と情けない声が聞こえれば、彼女に抱きかかえられた友人が不満げな顔でこちらを見ていました。
「クロぴ、あとでお散歩いこーよ! 今年はゆっくり飛んであげるからさ!」
「……僕の名前、クロぴじゃないんですけど」
「去年のブラぴよりはマシでしょう」
若い魔女の手に撫でまわされ、毛並みをくちゃくちゃにされる友人を気の毒に思いながら、私は紅茶を飲みます。あとで蝙蝠に遣いをやって、彼女の曾祖母に、貴方のかわいい曾孫が無事に着いたとお伝えしなければ――そう思ったのでした。
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