-第二十夜- 墓地

 私の住む屋敷から少し離れたところに、その墓地はあります。森の最奥、限られた者しか足を踏み入れられず、世界で一番静かな場所。

 そこは私たちに仕えていた者たちが眠っていて、その魂がいつまでも安らかでいられるように私たちは代々管理をしているのでした。

 墓地の一番奥に見える立派な墓は私の祖父に仕えた騎士の墓です。彼は私たちの一族を守るために、吸血鬼狩りを何人も斬り伏せました。その隣にあるのは使用人の墓。父の代までのものですので、六百人以上はあそこで眠っているでしょうか。少々手狭ですが、彼らはそういった風習であると受け入れて皆、あそこで眠る日まで過ごしていました。そしてあれはこの森に迷い込んだ旅人の――。


 私はランタンを掲げながら、墓地の片隅にある小さな十字架に足を運びました。吸血鬼は十字架を憎むという迷信も未だ根強いですが、私たちはそれに対して特別な感情を抱くことはありません。ただ眠れる者が安らかになるためのおまじない。もしくは生きる者の為のもののひとつ。それを憎んでもなんの得にもならないことを、私たちは知っていました。

 小さな十字架の下には、ある者が埋葬されています。彼はこの墓地で、最後に眠りについた者になるでしょう。尤も……彼はまだ眠っていません。あの小さな身体は安穏とした安らぎよりも、世界をきままに散歩する自由を求めているのでした。

 ――ここに帰ってくることなんて、一年に一度ぐらい。

 私は小さい墓のまわりに散らばった落ち葉を掃除して、十字架の根元に小さな花束を飾りました。白い石で出来た十字架についた土埃を払って、ここに眠る者の名前が読めるようにします。キャロル。それが、いつかここで眠りにつく者の名前でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る