-第六夜- キャンディとお菓子

それは少々、棚の高いところにあったものですから、手を伸ばしてようやくどうにか、といったところでした。

「中々、不便な場所に置きましたね」

「いつもなら苦ではないのですよ?」

 ダン君に貰った干し肉を囓りながら、友人は呆れたように私と棚を見守っています。私はそろそろ足の裏と指の先がつりそうでしたが、ようやく硬く冷たい硝子瓶を引き寄せられました。――ほっとした瞬間。

「わっ……」

 バランスを崩した瓶の口からばらばらと中身が零れて、色とりどりの小さなキャンディが私の頭や肩をころころと叩きつつ、床に降りかかります。私も体勢を崩し、床に背中を強かに打ちました。

「いたぁい……」

「瓶は無事ですね」

 友人はくるくると笑いながら、床に寝そべる私の傍に音もなく降り立ちます。痛みはすぐにひきましたが、犯した失態に思わずため息が漏れました。私は中身が三分の一ほどになってしまったキャンディ瓶から、青いキャンディーを摘まみ出して口に放り、甘ったるい味のそれをからころと舌で転がしながら、私はぼやきました。

「不便でなりませんよ」

「まあもう少しの辛抱ですから」

 友人に宥められ、私は渋々身体を起こします。床に散らばったキャンディーたちは、燭台の灯りに照らされて古びた床できらきらと輝いていました。

「ああ、もったいない」

「遣いにやったコウモリたちにあげたらよろしいではないですか。そろそろ帰ってくるでしょうに」

 失礼、と友人は床に落ちていた一つ――オレンジのキャンディーをぱくりと口にします。それもそうか、と私も気を取り直して、散らばった小さなキャンディーたちを一つずつ拾い上げては、運良くそこにあった小皿に乗せていきました。

 それらを拾い終わると、僅かに開けていた窓の隙間から小さなコウモリがぱたぱたと帰ってきました。彼はわたしのまわりを飛び回った後、テーブルに降り立ちました。

「おかえりなさい。ちゃんと招待状は届けられましたか?」

 私の問いかけに彼は耳と鼻を小さく動かします。どうやら首尾良く届けることが出来たようです。皿の中のキャンディーに気がついたのか、ふんふんと鼻先を近づけています。

「どうぞ」

 赤いキャンディーを摘まみ上げ差し出すと、彼は小さな手でそれを受け取りペロペロと舐め始めます。その様子を暫く眺めていた友人は、私に向き直りました。

「招待客の一番乗りは誰でしょうね」

「私の予想では――」

 私の言葉を、ドアノッカーの音が遮りました。私と友人は顔を見合わせます。どうやら、予想する間もなく招待客がやってきたようでした。

「早すぎませんか。まだ一匹しか帰ってきてませんよ」

「さて、いったい誰が……」

「僕はあのスピード狂が一番乗りだと思いますね」

「彼女は自分の作ったものを試したいだけですよ。流石に去年はエンジンの音が煩かったので叱りましたが、反省はしないでしょうね」

 尾を揺らす友人と予想しあいながら、私は来客に失礼の無いように、軽く身なりを整えて玄関へ向かいます。扉をそっと開ければ、月光に照らされた二つの大きな影が、静かに私を見下ろしていました。

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