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第十四次特殊調査を明日に控えたこの日、サイバー研究室を訪ねたぼくは思いがけぬ人物と再会を果たした。
その人物―往生リツは、研究室に入ってくるぼくの姿を見つけると、すぐさま立ち上がり手を振ってきた。
「コウ、こっちよ」
「リツ」
ぼくは彼女のデスクへと向かう。
「日本に戻っていたのか」
「ええ。昨日の晩にカシミールから戻ってきたの。この椅子に座るのも二年ぶり」
「やっと故郷の土を踏めたわけだ」
「まあね。あなたはどうしてたの?」
「半年前までは中央アフリカでサーバーの回収をやっていた。民間の難民支援団体との共同作戦だったから、なかなか思うように行かなかったけれど」
「それはご苦労さま」リツはセミロングの髪をかき上げながら言った。「で、いまはなんの仕事を?」
「廃墟の地下に潜む幽霊探し」
ぼくはそう言って調査概要書を彼女に手渡した。
「なんだ。この調査のリーダーってあなたのことだったの」
リツは概要書を読みながら言った。
「それじゃあ、この調査のオペレーターって」
ぼくの問いかけに、彼女はゆっくりと頷いた。
「そう、私」
それから彼女はコンピューターのキーボードを叩き始めた。
「あなたがリーダーなら安心だわ。でも、妙な事件よね。ただの閉鎖された研究所の調査だっていうのに、八名も行方不明者が出るなんて。本当に幽霊がいるのかも。あなたは霊の存在を信じる?」
「信じない。人の意識や魂は肉体という器なしには存在し得ないよ。データが記憶媒体なしには存在し得ないのと同じように。だから、肉体が果てれば意識も魂も無に還る。幽霊なんてものは、大切な人間の死を受け入れられない心の弱さが生んだ妄想だ」
「だったら、あなたは今回の事件は誰の仕業だと思うの?」
「さあな。それを確かめるための調査だ」
「相変わらず慎重なのね、あなたって」
リツはエンターキーを押してから、ぼくのほうへ向きなおった。
「いまあなたの補助コンピューターへ研究所に関するデータを送った。パスワードは前と同じ」
「たしか、ぼくらが別れた場所だったか」
「出会った場所よ」
冗談を言いながらセキュリティロックを解除するぼくの姿を、リツは呆れ顔で見つめていた。
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