6.真面目にやってきたからね?【Day6・重ねる:結城+近田+松門】
「ねね、さっきインタビューで難しいこと訊かれてなかった?」
そう問い掛けてくるのは同じ『
来年『Seventh Edge』はデビュー10周年を迎える。そのため最近は日々アニバーサリーのための撮影やインタビュー、記念アルバムのレコーディングやダンスレッスンなどで忙殺されているのだ。でも忙しいのって良いことだよね、暇なのより全然良い。
「ああいうこと訊かれると普通に困るよねー」
「わかる。あんまりキャラと離れたこと言う訳にもいかないし」
「なんの話?」
オレと近田、もといチカの話に入ってきたのはメンバーの
「インタビューの質問に困ったねーって話」
「え、晋くんもそんなんだったの?」
「やっぱりひぃもそんな感じかあ」
案の定、だった。しかし何故この3人なのか。それはオレ、
その共通点とは、かつてスポーツや『競技』といったものに打ち込んでいた、もしくは現在進行形で打ち込んでいることだ。チカはフィギュアスケートでぶいぶい言わせていたし、ひぃは現在進行形で競技かるたに励んでいる。そしてオレはというと、中学までがっつり野球をやっていた。
恐らくそれを踏まえた上で、オレ含めた3人に対してインタビュアーの方は「努力について」を訊いてきたのだ。
いやあ、……めっちゃ困った。
「『努力論』だったよね、あの訊かれ方は」
チカの言葉にオレもひぃも頷く。インタビュアーの方が訊きたかったのは、オレらの競技人生を踏まえた上でそれがアイドルとしての努力とどう重なるのか、共通項や相違点があるのか、ということだった。多分『共通項』を主に聞きたかったんだろうなあ、とは思う。質問のされ方的に。
「晋くんの話が多分いちばん聞きたかったと思うよ、あの人」
「え? オレ?」
ひぃから突然出された見解に、オレは若干たじろぐ。そんな、インタビューなのに個人で差を付けて良いの? みたいな気持ちが滲み出てしまった。しかしひぃ曰く、それは分量の問題らしい。
オレはチカ、ひぃに比べてその『努力論』の部分についての掘り下げが多かったようだ。自分じゃ全然気付かなかったけど、まあ言われてみれば「ずっとこの話だなあ」とは思ってたけど、他のひとにはこんな感じじゃなかったってこと?
「っていうか真面目に訊くならオレよりも、オリンピック候補になりそうだったチカとか、現在進行形で名人に近付いてるひぃの方が良かったんじゃないのー?」
「まあそれは、競技内容によるんじゃないかな」
チカが淡々と答える。確かにチカのフィギュアスケート、ひぃの競技かるたに比べると圧倒的に野球の知名度は高い。シーズン中にずっと地上波で試合が流れているスポーツは、ここ日本において野球以外にないのだ。
「……競技人口が多くてもさー、ならオレじゃなくてプロ野球選手に訊けば良いのに」
「それはそうだね」
「シンから話を聞きたかったんだろ? っていうか、なに話したの?」
なにって、とオレは視線を上に向ける。色々話したが努力論についての記憶は薄めだ、何故ならありきたりなことしか言っていないからである。
「オレが思うにさ、『努力』って質よりも量なんだよ」
「あー、わかる気がする。ひぃは?」
「おれもわかる。低い質とか高い質の前に量、ってことでしょ?」
「そうそう」
オレがインタビュアーさんに話していたのは「質より量は、量を一定以上確保したひとしか言っちゃいけない」ということが主だった。大前提として、練習は沢山しないといけない。ちょっとの練習で上手く出来るひとなんてこの世にいない、どんなプロアスリート、プロアーティストだって無理だ。
あと初めてのことを出来るようにすることと、自分の地力をどんどん上げていくことはどっちも同じくらい難しいこととか、『現状維持』ってあんまり良い言葉に聞こえないけどプロになった時点で徐々にレベルアップしていかないと『現状維持』とも言えないとか、そういう話をしていた。
要するに「練習がいちばん大事」という身も蓋もないことを語っていたのである。
「み、身も蓋もなさすぎる……」
「でもシンの言ってることしか『言えない』よね。普通に。俺もほぼ同じこと言ったもん、あと『メンタルは鍛えろ』とか」
「メントレはマジで恒常的にやった方が良いよねー」
「ルーティーンの確立は確かに必須だ。おれもそれは意図的にやってる」
「結局積み重ねでしかないんだよなあ」
一朝一夕に為せることはないし、そこに才能はあんまり関係がない。才能があるひとだってとんでもなく努力してるし、逆に才能があっても努力出来なければ何者にもなれない。何者かになることがそんなに大事か? っていう話もあるけどねー、目的意識ってだけの話だと思うんだよな。
「あと、なにかに努力し続けて、そのなにかが大成出来なくても努力が無駄になった訳じゃない、っていうのは何回も言ったね」
「あー、シン節だ」
「オレ節なのこれ?」
「晋くんがよく言うイメージはあるかも」
これこそ『よく聞く』の最高峰だと思うのだけど、チカとひぃはこの『努力は無駄にならない』という話はオレ特有のものだと語る。いやいやそんな訳、チカだって似たような経歴してるからそう思ったことは沢山あるんじゃないの?
オレが目だけでそれを訴えていると、チカは気付いたのか「俺はよう言わん」と方言を全面に出して断言してきた。そ、そこまで?
「俺は『努力は無駄にならない』とは思わない。厳密に言うと、どこかで伏線回収はあるかも知れないけど、それを狙っていつでもどこでも努力しようとはマジで思わん」
「ああ、おれも結構そういうイメージ。無駄にならなかった努力はラッキーな努力だ」
「あ、おふたりともそういう感じなんですね……。やだな、オレ、ひとりだけ夢見がちみたいなかんじじゃん……」
「いやいやいやいや、そこがシンの良いとこだから!」
落ち込むな諦めるな、とオレとはちがう考え方を提示していたチカが何故か励ましてくれる。どうやらオレの意見が間違ってるとか、直したいとかそういう話じゃないらしい。ちゃんとリスペクトしてくれているようだ。それはなんだか、くすぐったい気がする。
「本当は色んなことにちゃんと取り組んだ方が良いのは分かってるんだよ、ただ出来ない」
「晋くんは全部に対して真摯なのがわかるから……ああ、だから『努力論』のインタビューが長かったのか。野球どうこうってだけじゃなくて」
「それは、恥ずかしいなあ……」
「良いところが認められるんだよ、胸張っていこう」
言ってチカはオレの背中を叩いた。そこそこの強さだったがなんだか懐かしい、シニア時代を少し思い出した。
自分としてはガムシャラにやってきただけ、っていう部分も多かったけど周りのひとはちゃんと評価してくれてるんだなと嬉しくなった。ここまで頑張ってきて良かった、というにはまだ早いけど。だってたった10年しか、年を重ねていない訳だし。
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