第8話:事情聴取⑤開始

「落ち着いたかい?」

「はい。大丈夫です。全部、思い出しました。」

「君に何があったのか、もう一度、話してくれないかな?」

「はい。ある朝、城の中の寝室で目覚めた私の目の前に、知らない男がいました。」

「あなたの父ではなくて?」

「はい。父とは別人です。その男は私に言いました。


『今日でおしまいだよ。お前は自由だ』と。」


「おしまい? 自由? どういう意味です?」

「その時は解りませんでした。でも、城の中の様子が普段と違う事には気付きました。」

「どう違ったのですか?」

「城の中の者が皆、見た事のない格好をしていました。兵士は鎧も剣も持たず、召使いも普段とは異なる姿をしていました。中には、あなた方と同じような服を着た者もいました。ドレスを着ているのは、私だけでした。」

「なるほど。」

「そして、口々に私に言うのです。おつかれさーん、とか、じゃあねー、とか。みんな、にこにこしていました。」

「…。」

「その中には、父も母もいました。ハハは私に言いました。これから大変だろうけどがんばってねって。でも、ぜんぜん優しくないんです。チチは無言でした。その口は笑っているようでした。」

「…。」

「私は気付きました。みんな、みんな、笑ってるんじゃない、にこにこしてるんじゃない、私を、あざ、嘲笑ってるんだって…、」

「大丈夫かい? もう、やめてもいいんだよ?」

「…いえ。続けさせて下さい。」

「…解った。」

「男に連れられて、私は城の外に出ました。城のそとに出たのは、は、はじめてでした、」

「…。」

「そこは、見た事のない景色が広がってました。真っ青な空と、太陽の輝き、きき、ああ、わたしは、はじめて、本物を、見たんですね、」

「…。」

「後ろで音がしました。わたしは、何事かと、振り向きました。巨大な鉄の塊がわたしの城に、王国に、ガーン、ガーンと叩きつけられていて、それで、城は、私の目の前で、崩れ去りました。周囲を見ました、瓦礫ばっかりでした。私が守ってきたものって、なんなんでしょうか?」

「…。」


「その時、男が、私に耳元で、囁きました。」


「なんて、言ったんだい?」


「…『よ う こ そ 、現 実 へ 』」


(事情聴取⑤終了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る